交差点において西進中の自動車と北上横断中の歩行者との衝突事故につき、被害者が青信号に従つて横断を開始したものと仮定して、加害車の走行状況を原審の説示する時速、反応時間、制動時間、制動距離等に則り衝突地点から逆算すると、加害車はその対面信号が青から黄に変わつた時には交差点より手前にいたことになるなど判示のような事情があるときは、加害車と被害者がともに青信号で交差点に入つたとの原審の認定には、経験則違反又は理由不備、理由齟齬の違法がある。
交差点における衝突事故につき加害自動車と被害歩行者がともに青信号で交差点に入つたとの認定に経験則違反又は理由不備、理由齟齬の違法があるとされた事例
民訴法185条,民訴法394条,民訴法395条6号
判旨
信号機の設置・管理の瑕疵の有無を判断するにあたり、加害車両と歩行者の双方が青信号で進入したとする認定が、車両の走行速度や制動距離、信号の時間配分等から導かれる計算上の数値と矛盾する場合、その事実認定には経験則違反等の違法がある。
問題の所在(論点)
国家賠償法2条1項の瑕疵の有無を判断する前提となる事実認定において、車両速度や信号サイクルに基づく計算上の数値と矛盾する認定をすることが許されるか。
規範
国家賠償法2条1項の「設置又は管理に瑕疵」があるとは、営造物が通常有すべき安全性を欠いている状態をいう。信号機の秒数設定等の瑕疵を判断する基礎となる事実(加害車や歩行者の進入時の信号状態等)の認定は、車両の速度、移動距離、反応時間、制動距離等の客観的数値に基づき、経験則に照らして合理的なものでなければならない。
重要事実
変形五差路の交差点において、西進する加害車両と南から北へ横断中の歩行者が衝突し、歩行者が死亡した。当該信号機は、西進車両が青で進入しても、その後の黄(2.5秒)・全赤(1.5秒)の計4秒間では交差点を抜けきれず、歩行者用信号が青に変わる設定であった。原審は、加害車が「青の直末」で進入し、歩行者も「青」で横断を開始したため、双方青信号による事故が生じたとして設置・管理の瑕疵を認めた。
あてはめ
原審は加害車が青信号で進入したとするが、加害車が歩行者を発見して急制動を開始した地点から逆算すると、信号が黄に変わった時点で加害車は停止線より手前にいたことになり、黄信号で進入した可能性が高い。また、反応時間(1秒)や歩行速度(時速4km)から試算される移動時間と、実際の衝突地点の整合性が取れていない。さらに、他の待機車両の運転者の供述によれば、加害車が異常な停止をするまで対面信号が青に変わったことを認識しておらず、歩行者が青信号で横断を開始したという認定は、客観的状況や経験則に照らし合理性を欠く。
結論
原審の事実認定には経験則違反、理由不備、または理由齟齬の違法がある。加害車と歩行者の双方が青信号であったとの認定を前提に瑕疵を認めた判断は維持できず、破棄差し戻しを免れない。
実務上の射程
信号機の瑕疵が争われる事案における事実認定の枠組みを示す。答案上では、国賠法2条の「瑕疵」を論じる際、信号機の秒数設定が「不適切」であると結論付ける前段階として、当事者の信号遵守状況をいかに厳密に認定すべきかという事実認定の作法として活用する。
事件番号: 昭和43(オ)431 / 裁判年月日: 昭和48年2月16日 / 結論: 棄却
南北に通ずる道路と東西に通ずる二本の近接した道路とがほぼ直角に交わる交差点のほぼ中央に電車の軌道が敷設されているなど、判示のような複雑な構造を有する交差点において、東西に通ずる道路上の車両の進行を規制するとともに、交差点の北側の横断歩道上を西から東に向かう歩行者の歩行をもかねて規制するものとして東側に信号機が設置された…