南北に通ずる道路と東西に通ずる二本の近接した道路とがほぼ直角に交わる交差点のほぼ中央に電車の軌道が敷設されているなど、判示のような複雑な構造を有する交差点において、東西に通ずる道路上の車両の進行を規制するとともに、交差点の北側の横断歩道上を西から東に向かう歩行者の歩行をもかねて規制するものとして東側に信号機が設置された場合に、横断歩道の西端から信号機の設置位置までの距離が約三〇メートルあり、同西端における信号機の見通し角度が正面から右約四七ないし五五度であつたなど判示のような事情があるため、一般の歩行者にとつて右信号機が横断歩道の歩行をもかねて規制するものであることを容易に認識できないときは、右信号機は、横断歩道の歩行者の歩行をも規制するものとしては、不適当な位置に設置されていたものというべく、その設置に瑕疵があつたものと解すべきである。
道路の交差点における信号機の設置に瑕疵があつたとされた事例
国家賠償法2条,民法717条
判旨
公の営造物の設置の瑕疵(国家賠償法2条1項)とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いている状態をいう。信号機の位置が歩行者にとって認識しにくいなど、構造的に安全機能を全うできない状況にあれば、設置の瑕疵が認められる。
問題の所在(論点)
信号機が、歩行者の視認が困難な位置に設置されていた場合、国家賠償法2条1項の「設置の瑕疵」が認められるか。また、現場の警察官による交通整理が瑕疵を治癒させるか。
規範
国家賠償法2条1項にいう「設置又は管理の瑕疵」とは、公の営造物がその種類・性質に応じて通常有すべき安全性を欠いている状態をいう。営造物が客観的に不完全な状態にあり、本来具備すべき安全機能を全うしえない状況にある場合には、設置の瑕疵が認められる。
重要事実
本件交差点は路面電車の軌道が斜めに横断する特異な構造であった。信号機は歩行者にとって進行方向から見て右後方の見えにくい位置(距離約30m、角度47〜55度)に設置され、横断を開始するとさらに視認が困難になる状況であった。また、電車接近時に車両用信号が赤になると、慣れた歩行者であっても歩行可能と錯覚しやすい信号機構となっていた。事故当時、警察官による交通整理や警笛による制止もなされたが、騒音や降雨により歩行者には認識しにくい状況であった。
あてはめ
本件信号機は、本件横断歩道から斜め右方を注視すれば確認可能ではあるが、歩行者の前方視界に当然には入らず、歩行が進むにつれて視認がより困難になる。このような構造上・機能上の特性に加え、錯覚を生じやすい信号表示の機構を考慮すると、一般の歩行者が信号の規制を容易に認識できる適切な位置にあるとはいえない。したがって、本件信号機は歩行者の安全確保という本来具備すべき安全機能を全うしえない状況にあった。また、現場の警察官も車両の円滑化を主眼としており、騒音等から歩行者が制止を容易に認識できなかった以上、瑕疵が治癒されたとはいえない。
結論
本件信号機には設置の瑕疵が認められる。また、警察官の行為によって瑕疵による責任が免除されることもない。
実務上の射程
営造物の瑕疵について、物理的な破損だけでなく、設計上の欠陥や配置の不適当により「通常有すべき安全性」を欠く場合も含まれることを示す。特に、利用者の心理的状況や周囲の環境(視認性・錯覚の可能性)を考慮して瑕疵を判断する枠組みとして重要である。
事件番号: 昭和40(オ)536 / 裁判年月日: 昭和46年4月23日 / 結論: 棄却
一、土地の工作物たる踏切道の軌道施設は、保安設備とあわせ一体としてこれを考察すべきであり、本来そなえるべき保安設備を欠く場合には、土地の工作物たる軌道施設の設置にかしがあるものとして、民法七一七条所定の帰責原因になる。 二、電車の踏切において、横断者からみた踏切付近の見通しが判示のとおりであり、所定の速度で踏切を通過し…