一、土地の工作物たる踏切道の軌道施設は、保安設備とあわせ一体としてこれを考察すべきであり、本来そなえるべき保安設備を欠く場合には、土地の工作物たる軌道施設の設置にかしがあるものとして、民法七一七条所定の帰責原因になる。 二、電車の踏切において、横断者からみた踏切付近の見通しが判示のとおりであり、所定の速度で踏切を通過しようとする電車の運転者が、踏切上にある歩行者を最遠距離において発見してただちに急停車の措置をとつても、踏切を越える地点でなければ停止できないほど見通しが悪いうえ、一日につき、換算交通量七〇〇人程度、列車回数五〇四回にのぼり、過去においても数度に及ぶ電車と通行人との接触事故があつたという事情のある場合には、少なくとも右踏切に警報機を設置していなかつたことは、土地の工作物たる軌道施設の設置にかしがあつたものというべきである。
一、踏切道の軌道施設に保安設備を欠く場合と民法七一七条の責任 二、踏切道の軌道施設に設置上のかしがあるとされた事例
民法717条
判旨
踏切道における軌道施設は保安設備と併せ一体として工作物を構成し、見通しの良否や交通量等の具体的状況から、あるべき保安設備を欠き列車運行と道路交通の安全の調整が全うされない場合には、民法717条1項の設置の瑕疵が認められる。
問題の所在(論点)
踏切道における保安設備の欠如が、民法717条1項にいう土地の工作物の「設置……の瑕疵」にあたるか。また、行政上の設置標準を満たしていれば瑕疵が否定されるか。
規範
土地の工作物たる踏切道の軌道施設は、保安設備と併せ一体として考察すべきであり、あるべき保安設備を欠く場合には民法717条所定の設置の瑕疵にあたる。その成否は、当該踏切道における見通しの良否、交通量、列車回数等の具体的状況を基礎として、列車運行の確保と道路交通の安全との調整が全うされ、事故の危険が少なくない状況にあるかという観点から判断される。なお、行政上の保安設備設置標準は最低限度を示すものにすぎず、これを満たすからといって直ちに瑕疵が否定されるものではない。
重要事実
上告会社が所有する本件踏切は、北側50メートル、南側80メートルの見通ししかなく、電車の運転者が歩行者を発見して急停車しても踏切を越えてしまう状況にあった。過去に数回の接触事故が発生しており、事故当時の交通量は1日換算700人、列車回数は504回に及んでいたが、警報機等の保安設備が設置されていなかった。被害者は本件踏切を横断しようとして電車と接触し、死亡した。
あてはめ
本件踏切は、見通しの悪さから運転者が歩行者を発見しても衝突を回避できず、過去にも事故が多発していた。1日504回という高頻度の列車運行に対し、1日700人の交通量があるにもかかわらず、警報機すら設置されていない。このような状況では、列車運行と道路交通の安全の調整という踏切本来の機能が果たされておらず、事故の危険が極めて高いといえる。したがって、本来具えるべき設備を欠くものとして設置の瑕疵が認められる。行政上の設置標準を維持しているとの反論も、それが最低限度の基準である以上、結論を左右しない。
結論
本件踏切に警報機を欠いていたことは土地の工作物の設置の瑕疵にあたり、上告会社は民法717条1項に基づく損害賠償責任を負う。
実務上の射程
工作物の瑕疵の判断において、行政基準の遵守が直ちに免責の根拠とはならないことを示す。また、踏切のような動的な危険が介在する工作物について、設備そのものの物理的欠陥だけでなく、周囲の利用状況や危険度に応じた「あるべき保安設備」の欠如を瑕疵として構成する際の枠組みとして機能する。
事件番号: 昭和46(オ)887 / 裁判年月日: 昭和50年6月26日 / 結論: 棄却
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