三五〇〇ボルト以下の高圧架空送電線のゴム被覆が破損していたため感電事故が生じた場合、行政上の取締規定からは右電線にゴム被覆を用いることが必要でなく、また、終戦後の国内物資の欠乏からその電力会社管下の破損したゴム被覆高圧送電線を全部完全なものに取り替えることは極めて困難な状況にあつても、事故現場の電線の修補することが絶対不可能でないかぎりは、右送電線を所有する電力会社は、右事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。
電気工作物に瑕疵があるとされた事例。
民法717条
判旨
土地の工作物の所有者は、行政上の取締規定に適合する設備を設置していたとしても、それだけで民法717条1項の賠償責任を免れることはできない。また、事故防止に資する修補や高度な保安設備の設置が経済的・資材的に困難であったとしても、それが科学的・経済的に不可能な範囲でない限り、設置又は保存の瑕疵を否定する理由にはならない。
問題の所在(論点)
行政上の取締規定(電気工作物規程等)を遵守している場合であっても、民法717条1項の「瑕疵」が認められ得るか。また、資材不足や経済的困難による修補の不実施が免責事由となるか。
規範
民法717条1項にいう「工作物の設置又は保存に瑕疵がある」とは、工作物が通常有すべき安全性を欠いている状態をいう。この瑕疵の有無は、行政上の取締規定への適合性のみによって決まるものではなく、当時の科学技術水準や経済的状況に照らし、事故を防止するために本来備えるべき安全性を備えていたか否かによって判断される。物理的・経済的な修補の困難性は、直ちに所有者の賠償責任を免責せしめる事由にはならない。
重要事実
電力会社(上告人の被承継人)が市街地に所有する高圧架空送電線のゴム被覆が古損・剥離していたが、当時の戦時特例等の取締規定上は、裸硬銅線の使用も許容されていた。また、変電所には自動遮断器等が設置されていたが、動作電流の設定等の関係で本件断線事故時には作動せず、手動遮断まで数分を要し、死傷者が発生した。電力会社は、物資不足による修補の困難性や、取締規定への適合性を理由に責任を争った。
事件番号: 昭和35(オ)381 / 裁判年月日: 昭和37年4月26日 / 結論: 棄却
一 炭坑の坑口附近に設置された捲上機の一部をなし、炭車を坑口に捲き上げるために使用される原判ワイヤロープ(原判決引用の第一審判決理由参照)は、民法第七一条にいわゆる「土地ノ工作物」に該当する。 二 労働者災害補償保険法に基づき妻に支給された遺族補償費の額が、妻の使用者に対して有する不法行為による財産的損害賠償請求権の額…
あてはめ
第一に、本件送電線はゴム被覆が剥離しており、市街地における安全確保の観点からは裸線よりも被覆線が本来望ましい。取締規定に違反しないとしても、民法上の瑕疵の有無は別個に判断されるべきである。第二に、終戦直後の物資不足により全線の取替えが困難であったとしても、本件現場の修補自体が科学・経済的に不可能であったとは認められず、修補の困難性は免責事由とならない。第三に、保安設備についても、当時既に存在した選択接地継電器等を採用していれば被害を防止・局限できたといえ、既存設備が取締規定に適合していても、迅速な遮断装置を欠いた点に瑕疵が認められる。
結論
本件送電線および保安設備の設置・保存には瑕疵があり、電力会社は民法717条1項に基づき工作物責任を負う。
実務上の射程
工作物責任における「安全性」が、単なる法令遵守(公法上の基準)を超えた相対的・実質的なものであることを示した重要判例。答案では「通常有すべき安全性」を論じる際、法令適合性を超えて、事故回避の可能性や当時の技術水準、場所的状況を総合考慮する根拠として用いる。
事件番号: 昭和40(オ)536 / 裁判年月日: 昭和46年4月23日 / 結論: 棄却
一、土地の工作物たる踏切道の軌道施設は、保安設備とあわせ一体としてこれを考察すべきであり、本来そなえるべき保安設備を欠く場合には、土地の工作物たる軌道施設の設置にかしがあるものとして、民法七一七条所定の帰責原因になる。 二、電車の踏切において、横断者からみた踏切付近の見通しが判示のとおりであり、所定の速度で踏切を通過し…
事件番号: 昭和29(オ)848 / 裁判年月日: 昭和31年12月18日 / 結論: 破棄差戻
国が連合国占領軍の接収通知に応じ、建物をその所有者から賃借してこれを同軍の使用に供した場合には、国はその建物の設置保存に関する瑕疵に基因する損害につき、民法第七一七条にいう占有者としてその責に任ずべきである。