一 炭坑の坑口附近に設置された捲上機の一部をなし、炭車を坑口に捲き上げるために使用される原判ワイヤロープ(原判決引用の第一審判決理由参照)は、民法第七一条にいわゆる「土地ノ工作物」に該当する。 二 労働者災害補償保険法に基づき妻に支給された遺族補償費の額が、妻の使用者に対して有する不法行為による財産的損害賠償請求権の額をこえる場合でも、妻以外の遺族はそのことと関係なく、使用者に対し、不法行為による財産的損害の賠償を請求することができる。 三 労働者災害補償保険法に基づき遺族補償費が支給された場合でも、遺族は別に、使用者に対し、不法行為による損害賠償としての慰藉料を請求することができる。 四 労働者災害補償保険法に基づき葬祭料が支給された場合でも、不法行為による遺族損害賠償請求権には消長をきたさない。
一 民法第七一七条にいわゆる「土地ノ工作物」に該当するとされた事例 二 労働者災害補償保険法による遺族補償費として受給者の財産的損害額をこえる金額が支給された場合と受給者以外の遺族の財産的損害賠償請求権の有無 三 労働者災害補償保険法による遺族補償費の受給と遺族の慰藉料請求権の有無 四 労働者災害補償保険法による葬祭料の受給と遺族の損害補償請求権の有無
民法717条,民法711条,労働者災害補償保険法12条1項4号,労働者災害補償保険法12条1項5号,労働基準法79条,労働基準法80条,労働基準法84条2項
判旨
民法717条の土地の工作物には捲上機が含まれ、そのワイヤロープが捲上機の能力に耐え得なかった場合は設置・保存の瑕疵が認められる。また、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償費は、同一の事由による物質的損害賠償請求権とのみ充当・調整され、慰謝料請求権や他の遺族の損害賠償請求権には及ばない。
問題の所在(論点)
1.捲上機が「土地の工作物」(民法717条1項)に該当するか。2.ワイヤロープの破断をもって「設置又は保存の瑕疵」を認めることができるか。3.受領済みの労災遺族補償費を、受給者以外の遺族の損害賠償額や、受給者自身の慰謝料額から控除できるか。
規範
1.民法717条1項にいう「土地の工作物」には、土地に固着して設置された捲上機(及びその一部であるワイヤロープ)が含まれる。2.工作物の設置・保存の「瑕疵」とは、当該工作物が本来備えているべき安全性を欠いていることをいい、工作物の所有者は無過失であっても賠償責任を免れない。3.労災保険法に基づく遺族補償費の受給による損害賠償額の控除(調整)は、受給者本人の物質的損害(逸失利益等)の範囲に限られ、慰謝料請求権や他の相続人の損害賠償請求権との間で行うことはできない。
事件番号: 昭和33(オ)510 / 裁判年月日: 昭和37年11月8日 / 結論: 棄却
三五〇〇ボルト以下の高圧架空送電線のゴム被覆が破損していたため感電事故が生じた場合、行政上の取締規定からは右電線にゴム被覆を用いることが必要でなく、また、終戦後の国内物資の欠乏からその電力会社管下の破損したゴム被覆高圧送電線を全部完全なものに取り替えることは極めて困難な状況にあつても、事故現場の電線の修補することが絶対…
重要事実
上告人が所有・管理する捲上機のワイヤロープが、捲き上げる力に耐えきれず破断し、被害者Dが死亡する事故が発生した。Dの妻(被上告人B1)及び子ら(B2〜B4)は、工作物責任に基づき物質的損害および慰謝料の賠償を求めた。これに対し上告人は、捲上機は土地の工作物に該当しないこと、自己に過失がないこと、及びB1が受領した労災保険法に基づく遺族補償費(約36万円)を、遺族全員の損害賠償額全体から控除すべきであることを主張して争った。
あてはめ
1.捲上機及びその一部であるワイヤロープは、土地に設置された設備として「土地の工作物」に該当すると解するのが相当である。2.本件ワイヤロープは捲上機の捲き上げる力に耐え得なかったのであるから、工作物が通常備えるべき安全性を欠いており、設置又は保存に「瑕疵」があったといえる。工作物所有者は、無過失であっても責任を免れない。3.労災保険の遺族補償費は、性質上、受給者(妻B1)の物質的損害を補填するものである。したがって、B1が取得した物質的損害賠償権(約21万円)との間でのみ充当され、B1の慰謝料請求権や、受給者ではない子らの損害賠償権を消滅させるものではない。
結論
捲上機は土地の工作物に該当し、その強度不足は瑕疵にあたる。労災遺族補償費による損害賠償額の控除は、受給者本人の物質的損害の範囲に限定される。
実務上の射程
工作物責任における「瑕疵」の客観的判断(強度不足)と、所有者の無過失責任を明確にした。また、労災給付と民事賠償の調整(損益相殺的調整)において、項目別・人身別になされるべきとする「項目別対照説」に近い立場を示しており、答案上、損害論における控除範囲を論ずる際の重要な根拠となる。
事件番号: 昭和32(オ)760 / 裁判年月日: 昭和36年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自動車運転者は、前方に同一方向に進行する自転車がある場合、進路の間隔を十分に保ち、自転車の予期せぬ挙動にも対応できるよう減速すべき注意義務を負い、また、使用者が民法715条1項但書による免責を受けるには選任及び監督の両方について相当の注意を尽くしたことを要する。 第1 事案の概要:加害者Aは、自動…
事件番号: 昭和27(オ)722 / 裁判年月日: 昭和30年1月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】過失相殺(民法722条2項)は、被害者に生じた損害の総額に対して必ず一律に行わなければならないものではなく、項目別など個別の算定過程において適用することも許容される。 第1 事案の概要:上告人は、三輪車と相手方の車両がすれ違う際の事故により損害を被った。原審は、三輪車が右方に寄る以前の状況や事故態…