業務上過失傷害事件で上告審であらたに提出され公判廷に顕出された書面などを参酌して審理不尽、事実誤認の疑いがあるとされた事例
刑法211条,刑訴法411条1号,刑訴法411条3号
判旨
信号機の表示に関する供述に食い違いがある場合、目撃証言の不自然さや他の客観的事実との整合性を十分に検討せず、被告人に信号無視の過失を認めることは審理不尽・事実誤認として許されない。
問題の所在(論点)
信号機の表示状況について被告人と被害者側の主張が対立する中、原審が目撃者Cの証言を前提に停車車両の存在を否定し、被告人の信号無視を認定した判断に事実誤認の疑いがあるか。
規範
刑事裁判における事実認定は、証拠との合理的な関連性が必要であり、特に被告人と被害者の主張が対立する場面では、第三者の証言や周辺状況に基づき、各供述の信用性を厳格に吟味しなければならない。認定事実が不自然な目撃証言に依拠し、有力な反対証拠を不合理に排斥している場合は、審理不尽ないし重大な事実誤認(刑訴法411条1号、3号)として破棄の対象となる。
重要事実
被告人が交差点で普通乗用車を直進中、右方から進入した貨物自動車と衝突した。第一審及び原審は、被害者側や目撃者Cの供述を根拠に、被告人側の信号が赤であったとして過失を認定。これに対し、被告人は自車の信号は青であったと終始一貫して主張。また、後続車の運転者Dは、国道側(被害者側)の信号が赤で停車車両が存在した旨を供述し、当審ではこれを裏付ける新たな証拠(録音テープ翻訳書)も提出された。
あてはめ
第一審及び原審が依拠した目撃者Cの証言は、衝突直後に停車車両が存在しなかったとするが、被害者A・B自身の供述によれば衝突直後にも乗用車3台が存在していたことが認められ、Cの証言は信用しがたい。また、後続車Dの証言や現場の状況に照らせば、被害者側の信号が赤で車両が停車していた疑いが濃厚である。被害者側がこれらを「進行中であった」とする供述も、停車中の見間違いである可能性が否定できない。このように、有力な反対証拠を合理的な理由なく排斥し、被告人の信号無視を認定した原判断は、証拠評価において著しく正義に反する。
事件番号: 昭和43(あ)1082 / 裁判年月日: 昭和44年5月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決に影響を及ぼすべき事実誤認や法令違反がある場合であっても、結論において正当であると認められるときは、原判決を破棄する必要はない。 第1 事案の概要:被告人が信号無視(赤信号での進入)をしたとして起訴された事案。第一審は被告人の信号無視を認定し、有罪とした。原判決(控訴審)は、第一審の認定を支持…
結論
被告人の過失を認めた原判決には審理不尽ないし重大な事実誤認の疑いがあり、判決に影響を及ぼすことが明らかであるため、原判決を破棄し、差し戻すべきである。
実務上の射程
供述証拠が対立する交通事故において、証言の信用性を検討する際の「不自然な変遷」や「客観的状況との矛盾」を突く論法として活用できる。特に、目撃証言の信用性を争う際、周辺の第三者の行動(停車車両の有無等)との整合性を重視する姿勢を示している。
事件番号: 昭和47(あ)248 / 裁判年月日: 昭和47年11月16日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】業務上過失致死傷罪において、追い抜き時の接触事故の過失を認定するには、車両の損傷箇所や事故の経緯に矛盾がないよう、物理的状況に整合した具体的な事実を認定しなければならない。 第1 事案の概要:被告人は片側二車線の追越し車線を時速約60kmで西進中、走行車線の車両を追い抜こうとした。その際、対向車と…
事件番号: 昭和52(あ)2285 / 裁判年月日: 昭和54年12月4日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】科学的根拠を欠く鑑定結果に基づいて事故時の走行速度を認定し、被告人の過失を認めた原判決には、重大な事実誤認を看過した違法がある。専門家の鑑定であっても、具体的かつ実証的な根拠に基づくものでなければ、その正確性を肯定することはできない。 第1 事案の概要:被告人が夜間、前照灯を下向きにして走行中、路…
事件番号: 昭和47(あ)295 / 裁判年月日: 昭和49年10月14日 / 結論: 棄却
信号機の表示する信号に従つて一時停止することなく漫然交差点に進入し人身事故を発生させた本件の場合(第一審判決参照)、道路交通法(昭和四六年法律第九八号による改正前のもの)一一九条一項一号、四条二項、道路交通法施行令(昭和四六年政令第三四八号による改正前のもの)二条一項のいわゆる信号無視の罪と業務上過失傷害罪とは、観念的…