信号機の表示する信号に従つて一時停止することなく漫然交差点に進入し人身事故を発生させた本件の場合(第一審判決参照)、道路交通法(昭和四六年法律第九八号による改正前のもの)一一九条一項一号、四条二項、道路交通法施行令(昭和四六年政令第三四八号による改正前のもの)二条一項のいわゆる信号無視の罪と業務上過失傷害罪とは、観念的競合の関係にある。
道路交通法(昭和四六年法律第九八号による改正前のもの)一一九条一項一号、四条二項、道路交通法施行令(昭和四六年政令第三四八号による改正前のもの)二条一項のいわゆる信号無視の罪と業務上過失傷害罪とが観念的競合の関係にあるとされた事例
道路交通法(昭和46年法律98号による改正前のもの)4条2項,道路交通法(昭和46年法律98号による改正前のもの)119条1項1号,刑法54条1項
判旨
自動車の信号無視による不停止と、その直後の交差点進入による業務上過失傷害罪は、自然的観察のもとにおける社会的見解上一個の活動と評価でき、刑法54条1項前段の観念的競合にあたる。
問題の所在(論点)
信号無視による一時不停止(道路交通法違反)と、その後の漫然とした交差点進入による業務上過失傷害罪が、「一個の行為」として観念的競合(刑法54条1項前段)の関係にあるか。
規範
刑法54条1項前段にいう「一個の行為」とは、自然的観察のもとにおける社会的見解上、一個の活動と評価し得るものを指す。
重要事実
被告人は、一時停止すべき信号に従わず、そのまま漫然と交差点に進入したことにより、3名に傷害を負わせる人身事故を発生させた。また、被告人は無免許運転かつ酒酔い運転の状態にあった。第一審・原審はこれらを併合罪として処理したが、最高裁は職権で罪数関係を検討した。
事件番号: 昭和48(あ)2132 / 裁判年月日: 昭和49年1月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上過失傷害罪と酒酔い運転の罪は、一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合に該当し、刑法54条1項前段により観念的競合の関係にある。被告人に不利益な変更を求める上告趣意は不適法として退けられる。 第1 事案の概要:被告人は酒に酔った状態で自動車を運転し(酒酔い運転)、その運転走行中に注意義務を怠っ…
あてはめ
信号機の表示に従わず、一時停止することなく漫然と交差点に進入し人身事故を発生させた被告人の動態は、時間的・空間的に極めて密接しており、社会的見解上、一個の活動と評価すべきである。したがって、改正前道交法違反と業務上過失傷害罪は同時に一箇の行為によって成立したものと認められる。また、同一の運転の機会に行われた無免許運転と酒酔い運転についても、同様に一個の行為と評価される。
結論
信号無視と業務上過失傷害、および無免許運転と酒酔い運転は、それぞれ観念的競合の関係にある。原判決に法令適用の誤りはあるが、量刑が正当な範囲内であるため、上告を棄却する。
実務上の射程
交通犯罪における罪数決定のリーディングケースである。特に、信号無視や不停止といった先行する交通違反行為が、直後の交通事故と「一体的な動態」として評価できる場合には、併合罪ではなく観念的競合として処理すべきであることを示している。答案上は、時間的・場所的近接性から「自然的観察・社会的見解」による一個性を肯定する際の根拠として用いる。
事件番号: 昭和45(あ)2554 / 裁判年月日: 昭和46年6月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】酒酔い運転の罪と業務上過失傷害罪との罪数関係につき、前者の実行行為たる自動車の運転行為自体が後者の注意義務違反(過失)の内容をなす場合には、刑法54条1項前段により観念的競合と解すべきである。 第1 事案の概要:被告人は、飲酒により正常な運転ができないおそれがある状態で普通乗用自動車を運転した(酒…
事件番号: 昭和50(あ)949 / 裁判年月日: 昭和50年7月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】酒酔い運転の罪と業務上過失致死傷罪は、前者が後者の実行行為を包含する関係にあるため、刑法54条1項前段の観念的競合となる。一方で、無免許運転の罪とこれらの罪は、別個の独立した行為と解されるため、併合罪(同法45条前段)の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人は、酒に酔った状態で自動車を運転し(酒酔…
事件番号: 昭和46(あ)1590 / 裁判年月日: 昭和49年5月29日 / 結論: 棄却
同一の日時場所において、無免許で、かつ、酒に酔つた状態で自動車を運転する所為は、道路交通法一一八条一項一号、六四条の罪と同法一一七条の二第一号、六五条一項の罪との観念的競合の関係にある。
事件番号: 昭和48(あ)1969 / 裁判年月日: 昭和50年2月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】酒酔い運転の罪と、その運転中に行われた業務上過失致死傷の罪とは、一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合として、観念的競合(刑法54条1項前段)の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人は、酒に酔った状態で自動車を運転し(酒酔い運転)、その運転継続中に注意義務を怠って人身事故を起こし、他者に傷害を負わ…