同一の日時場所において、無免許で、かつ、酒に酔つた状態で自動車を運転する所為は、道路交通法一一八条一項一号、六四条の罪と同法一一七条の二第一号、六五条一項の罪との観念的競合の関係にある。
道路交通法六四条、一一八条一項一号の無免許運転の所為と同法六五条一項、一一七条の二第一号の酒酔い運転の所為とが同一の日時場所において行われた場合の罪数
道路交通法64条,道路交通法118条1項1号,道路交通法65条1項,道路交通法117条の2第1号,刑法54条1項
判旨
刑法54条1項前段にいう「一個の行為」とは、法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価される場合を指す。無免許かつ酒酔い状態での運転は、一個の車両運転行為であり、両罪は観念的競合の関係に立つ。
問題の所在(論点)
同一の日時場所において無免許かつ酒酔い状態で自動車を運転した場合、無免許運転罪(道路交通法118条1項1号、64条)と酒酔い運転罪(同法117条の2第1号、65条1項)は、併合罪(刑法45条)となるか、それとも観念的競合(刑法54条1項前段)となるか。「一個の行為」の意義が問題となる。
規範
刑法54条1項前段の「一個の行為」とは、法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価を受ける場合をいう。この判断においては、犯罪構成要件の観点から行為の単複を論ずる前に、まず法的に無色な客観的事実に対する自然な見方ないしは社会的見解に基づいてその一個性の有無を観察評価すべきである。
重要事実
被告人は、同一の日時場所において、道路交通法上の免許を受けていない無免許の状態であり、かつ、酒に酔い正常な運転ができないおそれのある状態で普通乗用自動車を運転した。検察官は、無免許運転罪と酒酔い運転罪は併合罪の関係にあると主張して上告した。
事件番号: 昭和50(あ)949 / 裁判年月日: 昭和50年7月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】酒酔い運転の罪と業務上過失致死傷罪は、前者が後者の実行行為を包含する関係にあるため、刑法54条1項前段の観念的競合となる。一方で、無免許運転の罪とこれらの罪は、別個の独立した行為と解されるため、併合罪(同法45条前段)の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人は、酒に酔った状態で自動車を運転し(酒酔…
あてはめ
被告人が自動車を運転するに際し、無免許であること及び酒に酔った状態であったことは、いずれも車両運転者の属性にすぎない。したがって、無免許かつ酒酔い状態で自動車を運転した行為は、構成要件的観点を捨象した自然的観察によれば、社会的見解上明らかに一個の車両運転行為であると認められる。この一個の行為が、同時に無免許運転罪と酒酔い運転罪の各犯罪構成要件に該当するものと評価される。
結論
無免許運転罪と酒酔い運転罪は、刑法54条1項前段の観念的競合の関係にある。本件各上告を棄却する。
実務上の射程
罪数論における「一個の行為」の判断基準を「自然的観察による社会的見解」に求めた重要判例であり、実務上、運転者の属性(無免許、酒酔い等)が重畳する事案では観念的競合として処理する指針となる。従来の併合罪とする判例を変更した点に意義がある。
事件番号: 昭和48(あ)1969 / 裁判年月日: 昭和50年2月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】酒酔い運転の罪と、その運転中に行われた業務上過失致死傷の罪とは、一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合として、観念的競合(刑法54条1項前段)の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人は、酒に酔った状態で自動車を運転し(酒酔い運転)、その運転継続中に注意義務を怠って人身事故を起こし、他者に傷害を負わ…
事件番号: 昭和48(あ)2132 / 裁判年月日: 昭和49年1月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上過失傷害罪と酒酔い運転の罪は、一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合に該当し、刑法54条1項前段により観念的競合の関係にある。被告人に不利益な変更を求める上告趣意は不適法として退けられる。 第1 事案の概要:被告人は酒に酔った状態で自動車を運転し(酒酔い運転)、その運転走行中に注意義務を怠っ…
事件番号: 昭和47(あ)295 / 裁判年月日: 昭和49年10月14日 / 結論: 棄却
信号機の表示する信号に従つて一時停止することなく漫然交差点に進入し人身事故を発生させた本件の場合(第一審判決参照)、道路交通法(昭和四六年法律第九八号による改正前のもの)一一九条一項一号、四条二項、道路交通法施行令(昭和四六年政令第三四八号による改正前のもの)二条一項のいわゆる信号無視の罪と業務上過失傷害罪とは、観念的…