店舗を賃貸する旨の約定の不履行による損害のうち営業上の逸失利益の賠償請求権を被保全権利としてした仮差押は、通常の借家権価格相当の損害賠償請求権については、消滅時効を中断しない。
債務不履行による損害の一部の賠償請求権を被保全権利とする仮差押が他の損害について消滅時効を中断しないとされた事例
民法147条2号,民法154条,民法416条,民訴法737条
判旨
仮差押えによる時効中断の効力は、原則としてその仮差押えの被保全権利と同一性が認められる権利にのみ及ぶ。前訴で請求した特定の損害賠償請求権を保全するための仮差押えは、それとは性質の異なる別の損害賠償請求権の消滅時効を中断しない。
問題の所在(論点)
仮差押えによる時効中断の効力が、その被保全権利として特定されていた損害賠償請求権(逸失利益)とは異なる性質の損害賠償請求権(借家権価格相当額)に対しても及ぶか。
規範
仮差押えによる時効中断(民法147条2号、現行法149条等参照)の効力は、仮差押決定において被保全権利として特定された権利、およびそれと同一性が認められる権利の範囲において生じる。被保全権利と、新たに主張する権利との間に金額や内容の同一性が認められない場合、原則として時効中断の効力は及ばない。
重要事実
上告人は、前回の訴訟において被上告人の店舗賃貸等契約不履行を理由に、逸失した営業利益219万円の損害賠償を請求していた。この際、当該請求権を被保全権利として仮差押決定を得ていた。その後、本件訴訟において、上告人は「通常の借家権価格相当」の損害賠償を請求した。なお、仮差押決定の被保全権利の額は、前訴の請求額と完全に一致していた。
あてはめ
本件において、上告人が得ていた仮差押決定の被保全権利は、前訴で請求していた「営業利益219万円」の損害賠償請求権であった。本件訴訟で上告人が求めているのは「通常の借家権価格相当」の損害賠償請求権であり、両者は計算の基礎や性質が異なる。仮差押えは前訴の請求権のみを保全する目的でなされたものと解されるため、本件の請求権との間に同一性は認められず、時効中断の効力を肯定することはできない。
結論
本件の損害賠償請求権について、前訴に係る仮差押えによる消滅時効の中断は認められない。
実務上の射程
訴訟物や被保全権利の特定が時効中断の範囲を画定するという実務上の原則を確認したものである。損害賠償請求において、損害の項目(費目)が異なる場合に、どこまで同一の権利として時効中断を認めるかの判断基準として機能する。答案上は、時効中断の対象範囲を論じる際の「権利の同一性」のあてはめで引用すべき判例である。
事件番号: 昭和43(オ)1044 / 裁判年月日: 昭和48年6月7日 / 結論: 棄却
不法行為による損害賠償についても、民法四一六条の規定が類推適用され、特別の事情によつて生じた損害については、加害者において右事情を予見しまたは予見することを得べかりしときにかぎり、これを賠償する責を負うものと解すべきである。