一 被相続人の生存中に相続人に対し売買を原因としてされた所有権移転登記について、被相続人の死亡後に、相続を原因とするものに更正することはできない。 二 被相続人の生存中にその所有する不動産につき共同相続人の一人である甲に対し仮空の売買を原因として所有権転移登記がされ、甲が第三者乙のために抵当権設定登記をした場合には、被相続人の死亡後、他の相続人は、甲に対しては真正な登記名義の回復を原因とする持分の移転登記手続を、乙に対しては甲の持分についての抵当権設定登記に改める更正登記手続を請求することができる。
一 被相続人の生存中に相続人に対し売買を原因としてされた所有権移転登記につき被相続人の死亡後に相続を原因とするものに更正することの可否 二 被相続人の生存中にその所有不動産につき共同相続人の一人に対し所有権移転登記がされた上で第三者のために抵当権設定登記がされた場合において被相続人の死亡後に他の相続人がした真正な登記名義の回復を原因とする持分移転登記手続請求及び抵当権設定登記についての更正登記手続請求が認められた事例
民法177条,民法882条,民法896条,民法898条,不動産登記法63条,不動産登記法66条
判旨
被相続人の生存中に売買を原因としてなされた相続人への所有権移転登記を、死後に「相続」を原因とする登記へ更正することはできないが、実質的に現在の権利関係の是正を求める趣旨であれば、真正な登記名義の回復を原因とする持分移転登記請求等として認容すべきである。
問題の所在(論点)
生前になされた無効な所有権移転登記に対し、死後、相続を原因とする更正登記手続を求めることができるか。また、そのような請求を真正な登記名義の回復を原因とする移転登記請求として扱うことができるか。
規範
1. 更正登記は、登記の一部に錯誤または遺漏がある場合に実体関係と一致させるために行われるが、登記当時に存在し得ない物権変動(生存中の相続等)を原因とする更正は、実体法上あり得ない事実を登記することになるため許されない。 2. もっとも、当事者が更正登記の形式で請求していても、その実質が現在の実体的な権利関係(共有持分等)の表示を是正する趣旨であるならば、真正な登記名義の回復を原因とする移転登記請求等として、その合理的意図を解釈して認めるべきである。
事件番号: 平成11(オ)773 / 裁判年月日: 平成12年1月27日 / 結論: その他
甲名義の不動産につき、甲から乙、乙から丙への順次の相続を原因として直接丙に対する所有権移転登記がされているときに、右登記を甲の共同相続人丁及び乙に対する所有権移転登記並びに乙から丙に対する持分全部移転登記に更正することはできない。
重要事実
D所有の不動産につき、Dの生存中に売買を原因として子A1への所有権移転登記がなされたが、実際には売買等の事実はなかった。その後、A2信用組合がA1を債務者とする根抵当権を設定。Dの死亡によりA1および他の子ら(被上告人ら)が共同相続した。被上告人らは、A1に対し「原因を相続、名義を共同相続人全員の共有」とする更正登記を、A2に対しその承諾を求めて提訴した。
あてはめ
本件登記がなされた当時、Dは生存しており「相続」による物権変動は起こり得ないため、相続を原因とする更正登記は認められない。しかし、被上告人らの請求の意図は、A1の単独所有と表示されている登記を、各自の現在の持分に応じて是正することにある。そうであれば、A1に対しては各自の持分について「真正な登記名義の回復」を原因とする持分移転登記を求め、A2に対しては根抵当権の範囲を「A1の持分のみ」に制限する更正登記を求める趣旨と解するのが相当である。
結論
相続を原因とする更正登記請求は認められないが、請求の趣旨を合理的に解釈し、真正な登記名義の回復を原因とする持分移転登記手続および根抵当権の更正登記手続の限度で請求を認容する。
実務上の射程
登記請求において、当事者が選択した登記手続の形式(更正登記)が登記法上不適切であっても、実体法上の権利関係の是正を求める趣旨が明白であれば、裁判所は合理的な構成(真正な登記名義の回復等)により請求を認容できることを示す。答案では「物権的請求権に基づく登記請求」の具体的構成を論ずる際の、請求の特定や合理的な意思解釈の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和28(オ)111 / 裁判年月日: 昭和31年7月27日 / 結論: 破棄差戻
不動産の譲渡人から与えられた代理権に基き、譲渡人の死亡後同人の代理人名義の申請によつてなされた移転登記は、それが現在の真実な権利状態に符合するものである限り、対抗力を有し、譲渡人の相続人は譲受人に対し、その抹消を請求することはできない。
事件番号: 昭和31(オ)793 / 裁判年月日: 昭和38年2月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律上の要件を欠く家督相続人選定は無効であり、戸籍上の記載が抹消された後は、表見相続人として権利者たる保護を受ける余地はない。真正相続人以外の第三者であっても、表見相続人が自ら権利を主張する場合には、その相続の無効を争い得ると解される。 第1 事案の概要:被相続人Fが死亡し、法定・指定の家督相続人…
事件番号: 平成15(受)1103 / 裁判年月日: 平成18年2月23日 / 結論: 棄却
不動産の所有者であるXから当該不動産の賃貸に係る事務や他の土地の所有権移転登記手続を任せられていた甲が,Xから交付を受けた当該不動産の登記済証,印鑑登録証明書等を利用して当該不動産につき甲への不実の所有権移転登記を了した場合において,Xが,合理的な理由なく上記登記済証を数か月間にわたって甲に預けたままにし,甲の言うまま…
事件番号: 昭和50(オ)932 / 裁判年月日: 昭和51年4月8日 / 結論: 棄却
先順位受附の登記申請人が、後順位受附の登記申請に基づき不動産登記法四八条に違反してされた登記につき、同条違反だけを理由にその抹消登記手続を求めることは許されない。