米国美術館の展示作品のカタログとして刊行された写真集を輸入しようとした者に対して税関長がした右写真集が関税定率法(平成六年法律第一一八号による改正前のもの)二一条一項三号に掲げる貨物に該当する旨の通知は、右写真集が、性器そのものを強調し性器の描写に重きが置かれているとみざるを得ない写真を含んでいて、同号にいう「風俗を害すべき書籍,図画」等に該当し、適法である。
輸入写真集が関税定率法(平成六年法律第一一八号による改正前のもの)二一条一項三号に掲げる貨物に該当する旨の税関長の通知が適法とされた事例
関税定率法(平成6年法律第118号による改正前のもの)21条1項3号,関税定率法(平成6年法律第118号による改正前のもの)21条3項
判旨
関税定率法によるわいせつ表現物の輸入規制は、憲法21条2項前段の検閲に当たらず、同条1項にも反しない。本件写真集は性器の描写に重きが置かれているため「風俗を害すべき書籍」に該当し、輸入禁止通知は適法である。
問題の所在(論点)
関税定率法に基づくわいせつ表現物の輸入禁止規制が、憲法21条2項前段(検閲の禁止)及び同条1項(表現の自由)に違反しないか。また、本件写真集が「風俗を害すべき書籍、図画」に該当するか。
規範
1. 憲法21条2項前段の「検閲」とは、行政権が主体となり、表現物を対象として、その全部又は一部の発表を禁止する目的で、対象物を網羅的に審査し、発表前にその内容を精査して不適当と認めるものの発表を禁止することを指す。税関検査は関税徴収手続の一環であり、思想内容等を網羅的に審査し規制することを目的とするものではないため、「検閲」に当たらない。 2. 「風俗を害すべき書籍、図画」とは、わいせつな書籍等を指す。わいせつ性の判断は、描写の比重、画面構成、芸術性による性的刺激の緩和程度等を総合し、社会通念に照らして判断する。
重要事実
事件番号: 昭和57(行ツ)156 / 裁判年月日: 昭和59年12月12日 / 結論: 棄却
一 関税定率法二一条三項の規定による税関長の通知は、抗告訴訟の対象となる行政庁の処分にあたる。 二 憲法二一条二項前段の検閲禁止は、公共の福祉を理由とする例外の許容をも認めない趣旨と解すべきである。 三 憲法二一条二項にいう「検閲」とは、行政権が主体となつて、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を…
上告人が輸入しようとした本件写真集は、著名な写真家ロバート・メイプルソープの回顧展のカタログである。当該写真集には、男性性器を強調し、性器の描写に重きが置かれた写真が複数含まれており、一冊の書籍として編綴されていた。東京税関長は、本件写真集が関税定率法21条1項3号所定の「風俗を害すべき書籍、図画」に該当するとして、輸入禁制品に該当する旨の通知を行った。
あてはめ
1. 本件規制は、国外で発表済みの表現物を水際で阻止するにすぎず、発表そのものを禁止するものではない。また、行政権が思想内容を網羅的に審査するものでもないため、検閲には当たらない。公共の福祉に基づく合理的な制限として、憲法21条1項にも反しない。 2. 本件写真集については、描写の画面全体に占める比重や画面構成を検討すると、人間の裸体を自然に描写したものではなく、性器そのものを強調し、性器の描写に重きが置かれている。したがって、一冊の書籍として全体的に見た場合、わいせつ性を有するものと認められる。
結論
本件写真集は関税定率法21条1項3号の「風俗を害すべき書籍、図画」に該当し、輸入禁止通知は適法である。上告を棄却する。
実務上の射程
税関検査が検閲に当たらないとする論理は、昭和59年大法廷判決を踏襲したもの。答案上では「検閲」の定義(4要件)を挙げた上で、税関検査が「発表そのものの禁止」ではない点や「網羅的審査」ではない点を指摘する。わいせつ性のあてはめでは、本作のように芸術的価値がある場合でも、性器描写の態様や比重によって違法とされる限界事例として参照される。
事件番号: 昭和62(行ツ)117 / 裁判年月日: 平成元年4月13日 / 結論: 棄却
一 郵便物中の信書以外の物についてわいせつ表現物の流入阻止の目的で行われる税関検査は、憲法一三条に違反しない。 二 郵便物中のわいせつ表現物の輸入規制に伴うその留置の措置は、憲法二九条、三一条に違反しない。
事件番号: 平成15(行ツ)157 / 裁判年月日: 平成20年2月19日 / 結論: その他
1 我が国において既に頒布され,販売されているわいせつ表現物を関税定率法(平成17年法律第22号による改正前のもの)21条1項4号による輸入規制の対象とすることは,憲法21条1項に違反しない。 2 輸入しようとした写真集が,男性性器そのものを強調し,その描写に重きを置くものとみざるを得ない写真を含むものであっても,次の…
事件番号: 昭和57(行ツ)42 / 裁判年月日: 昭和59年12月12日 / 結論: 棄却
一 憲法二一条二項前段の検閲禁止は、公共の福祉を理由とする例外の許容をも認めない趣旨と解すべきである。 二 憲法二一条二項にいう「検閲」とは、行政権が主体となつて、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査したうえ、不適当…
事件番号: 昭和48(行ツ)86 / 裁判年月日: 昭和54年12月25日 / 結論: 破棄差戻
関税定率法二一条三項の規定による税関長の通知又は同条五項の規定による税関長の決定及びその通知は、抗告訴訟の対象となる行政事件訴訟法三条二項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当する。