1 我が国において既に頒布され,販売されているわいせつ表現物を関税定率法(平成17年法律第22号による改正前のもの)21条1項4号による輸入規制の対象とすることは,憲法21条1項に違反しない。 2 輸入しようとした写真集が,男性性器そのものを強調し,その描写に重きを置くものとみざるを得ない写真を含むものであっても,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,上記写真集は,輸入禁制品に該当する旨の通知がされた当時の社会通念に照らして,関税定率法(平成17年法律第22号による改正前のもの)21条1項4号にいう「風俗を害すべき書籍,図画」等に該当しない。 (1) 上記写真集は,写真芸術ないし現代美術に高い関心を有する者による購読,鑑賞を想定して,美術評論家から高い評価を得ていた写真芸術家の主要な作品を1冊の本に収録し,その写真芸術の全体像を概観するという芸術的観点から編集し,構成したものであり,上記の写真は,そのような観点から主要な作品と位置付けられた上で,収録されたものとみることができる。 (2) 上記写真集は,ポートレイトや花,静物,男性及び女性のヌード等を対象とする作品を幅広く収録するものであり,上記の写真が写真集全体に対して占める比重は相当に低いものである上,上記の写真は,白黒の写真であり,性交等の状況を直接的に表現したものではない。 (3) 上記写真集は,上記(1),(2)などの観点から全体としてみたときに,主として見る者の好色的興味に訴えるものと認めることは困難である。 (2につき反対意見がある。)
1 我が国において既に頒布され,販売されているわいせつ表現物を関税定率法(平成17年法律第22号による改正前のもの)21条1項4号による輸入規制の対象とすることと憲法21条1項 2 輸入しようとした写真集が,関税定率法(平成17年法律第22号による改正前のもの)21条1項4号にいう「風俗を害すべき書籍,図画」等に該当しないとされた事例
(1,2につき)関税定率法(平成17年法律第22号による改正前のもの)21条1項4号,関税定率法(平成17年法律第22号による改正前のもの)21条3項,関税法69条の11第1項7号,関税法69条の11第3項 (1につき)憲法21条1項
判旨
税関長が関税定率法に基づき輸入を禁じている「わいせつな図画」に当たるか否かの判断において、写真集の芸術性・思想性による性的刺激の緩和効果を個別に検討した上で、全体として性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するかを判断した事案(メイプルソープ事件)。
問題の所在(論点)
関税定率法21条1項4号(当時)にいう「わいせつな図画」の意義と、芸術的価値を有する写真集におけるその判断枠組みが問題となる。
事件番号: 平成8(行ツ)26 / 裁判年月日: 平成11年2月23日 / 結論: 棄却
米国美術館の展示作品のカタログとして刊行された写真集を輸入しようとした者に対して税関長がした右写真集が関税定率法(平成六年法律第一一八号による改正前のもの)二一条一項三号に掲げる貨物に該当する旨の通知は、右写真集が、性器そのものを強調し性器の描写に重きが置かれているとみざるを得ない写真を含んでいて、同号にいう「風俗を害…
規範
「わいせつ」とは、徒に性欲を興奮又は刺激させ、かつ、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。ある表現物がこれに該当するかは、当該表現物の性に関する露骨な描写の程度、その芸術性・思想性等による性的刺激の緩和の程度、これらの程度の相関関係、及び当該表現物の構成や提示の方法等を総合して判断すべきである。特に、高い芸術性・思想性を有する場合には、それらと不可分な一体をなす描写によって生じる性的刺激が緩和・抑制される結果、全体として「わいせつ」に当たらないと判断される場合がある。
重要事実
対象はロバート・メイプルソープの写真集であり、世界的に高い評価を受けている芸術家の作品である。構成は、人物、花、静物等の写真に加え、男性の性器が露出した写真が含まれていた。これらの写真は画面の中央に配置され、ライティングや構図により高い芸術性が認められるものであった。税関長は、一部の写真に性器の直接的描写があることを理由に「わいせつな図画」に該当すると判断し、輸入を禁止する通知処分を行った。
あてはめ
本件写真集は、世界的に著名な写真家の代表的作品を網羅したものであり、全体として極めて高い芸術性を有する。問題となる性器の描写を含む写真も、作品全体の構成の一部として一体不可分な関係にあり、かつ、モノクロの静物画的手法で撮影されている。このような高い芸術性や提示方法は、性器描写から生じる性的刺激を相当程度に緩和・抑制しているといえる。したがって、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するとまでは認められない。
結論
本件写真集は「わいせつな図画」に該当せず、輸入を認めない通知処分は違法である。原判決を破棄し、処分の取消しを認容する。
実務上の射程
本判決は、従来のわいせつ概念を維持しつつ、芸術性・思想性による「性的刺激の緩和」という判断要素を明示した。これにより、性的描写を含む学術書や芸術作品の適法性を判断する際の具体的指針となっている。
事件番号: 昭和62(行ツ)117 / 裁判年月日: 平成元年4月13日 / 結論: 棄却
一 郵便物中の信書以外の物についてわいせつ表現物の流入阻止の目的で行われる税関検査は、憲法一三条に違反しない。 二 郵便物中のわいせつ表現物の輸入規制に伴うその留置の措置は、憲法二九条、三一条に違反しない。
事件番号: 昭和57(行ツ)156 / 裁判年月日: 昭和59年12月12日 / 結論: 棄却
一 関税定率法二一条三項の規定による税関長の通知は、抗告訴訟の対象となる行政庁の処分にあたる。 二 憲法二一条二項前段の検閲禁止は、公共の福祉を理由とする例外の許容をも認めない趣旨と解すべきである。 三 憲法二一条二項にいう「検閲」とは、行政権が主体となつて、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を…
事件番号: 昭和57(行ツ)42 / 裁判年月日: 昭和59年12月12日 / 結論: 棄却
一 憲法二一条二項前段の検閲禁止は、公共の福祉を理由とする例外の許容をも認めない趣旨と解すべきである。 二 憲法二一条二項にいう「検閲」とは、行政権が主体となつて、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査したうえ、不適当…
事件番号: 昭和48(行ツ)86 / 裁判年月日: 昭和54年12月25日 / 結論: 破棄差戻
関税定率法二一条三項の規定による税関長の通知又は同条五項の規定による税関長の決定及びその通知は、抗告訴訟の対象となる行政事件訴訟法三条二項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当する。