懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為の存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることは、特段の事情のない限り、許されない。
懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為の存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることの許否
労働基準法89条
判旨
懲戒処分は理由とされた非違行為との関係で適否が判断されるべきであり、処分当時に認識していなかった事実は特段の事情がない限り有効性の根拠にできない。
問題の所在(論点)
懲戒解雇の効力を争う際、使用者が懲戒当時に認識していなかった別の非違行為(本件では年齢詐称)を、後から懲戒理由として追加し、処分の有効性を根拠付けることができるか。
規範
懲戒は企業秩序違反に対する一種の秩序罰である。したがって、懲戒の適否は理由とされた非違行為との関係で判断されるべきであり、処分当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の有効性を根拠付ける理由とすることはできない。
重要事実
上告人(使用者)は、被上告人(労働者)が休暇を請求した際の応接態度等を理由として懲戒解雇を行った。しかし、訴訟段階において、上告人は懲戒当時に認識していなかった「年齢詐称の事実」を後付の解雇理由として追加主張し、本件懲戒解雇の有効性を争った。
事件番号: 平成16(受)918 / 裁判年月日: 平成18年10月6日 / 結論: 破棄自判
従業員が職場で上司に対する暴行事件を起こしたことなどが就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとして,使用者が捜査機関による捜査の結果を待った上で上記事件から7年以上経過した後に諭旨退職処分を行った場合において,上記事件には目撃者が存在しており,捜査の結果を待たずとも使用者において処分を決めることが十分に可能であったこと,…
あてはめ
本件懲戒解雇は休暇請求時の態度等を理由になされたものであり、上告人は当時、年齢詐称の事実を認識していなかった。認識していない事実は懲戒の理由とされたものでないことが明らかであり、特段の事情も認められない。したがって、年齢詐称を懲戒の根拠に用いることは、懲戒の性質(秩序罰)に照らして許されない。
結論
被上告人の年齢詐称をもって本件懲戒解雇の有効性を根拠付けることはできず、当該懲戒解雇は無効である。
実務上の射程
懲戒事由の追加(差し替え)の可否に関するリーディングケースである。普通解雇における理由の追加と異なり、懲戒解雇では「適時認識」が厳格に求められる。答案では、使用者が後から主張した非違行為を排除する論理として活用する。
事件番号: 平成4(オ)2122 / 裁判年月日: 平成9年2月28日 / 結論: 棄却
銀行が、就業規則を変更し、五五歳から六〇歳への定年延長及びこれに伴う五五歳以降の労働条件を定めた場合において、従前は、勤務に耐える健康状態にある男子行員が希望すれば五八歳までの定年後在職制度の適用を受けることができるという事実上の運用がされており、右変更により、定年後在職者が五八歳まで勤務して得ることを期待することがで…