一 債権者が、根抵当権の極度額を超える金額の被担保債権を請求債権として当該根抵当権の実行としての不動産競売の申立てをし、競売開始決定がされて同決定正本が債務者に送達された場合、被担保債権の消滅時効中断の効力は、当該極度額の範囲にとどまらず、請求債権として表示された当該被担保債権の全部について生じる。 二 物上保証人に対する不動産競売において、債務者に対する被担保債権の消滅時効中断の効力が生じた後、債権者が右競売の申立てを取り下げたときは、時効中断の効力は、初めから生じなかったことになる。
一 極度額を超える金額の被担保債権を請求債権とする根抵当権の実行がされた場合に被担保債権について消滅時効中断の効力が生じる範囲 二 不動産競売の申立ての取下げがされた場合における被担保債権の消滅時効中断の効力の帰すう
民法147条2号,民法154条,民法398条ノ2第1項,民事執行規則170条
判旨
根抵当権の実行としての不動産競売の申立ては、被担保債権の全額について消滅時効中断(差押え)の効力を生じさせるが、申立てが取り下げられた場合は、民法154条を類推適用し、時効中断の効力は初めから生じなかったものとみなされる。
問題の所在(論点)
物上保証人に対する競売申立てとその取り下げが、主債務(被担保債権)の消滅時効にどのような影響を及ぼすか。特に、取り下げによって時効中断の効力が遡及的に消滅するか、また「催告」としての効力が認められるかが問題となる。
規範
1. 根抵当権者が極度額を超える債権を請求債権として競売を申し立てた場合、時効中断の効力は、極度額の範囲に限らず、請求債権として表示された被担保債権の全部に及ぶ。 2. 物上保証人に対する競売開始決定正本が債務者に送達された場合、民法155条により、債務者に対しても被担保債権の消滅時効中断(差押え)の効力が生じる。 3. もっとも、当該申立てが取り下げられたときは、差押えが権利者の請求により取り消された場合に準じ(民法154条類推)、時効中断の効力は初めから生じなかったものとみなされる。 4. 担保権の実行としての競売申立ては、それ自体では民法153条の「催告」としての効力を有しない。
事件番号: 平成5(オ)1788 / 裁判年月日: 平成8年7月12日 / 結論: 破棄差戻
物上保証人に対する不動産競売において、被担保債権の時効中断の効力は、競売開始決定正本が債務者に送達された時に生ずる。
重要事実
債権者(被上告人)は、主債務者Eの委託を受けた連帯保証人兼物上保証人D(上告人)に対し、根抵当権を実行して競売を申し立てた。競売開始決定正本は債務者Eの破産管財人及びDに送達されたが、その後、Dが極度額(1500万円)を支払ったため、債権者は競売を取り下げた。Dは残額の保証債務について主債務(商事債権・5年)の消滅時効を援用し、保証債務の不存在確認を求めた。
あてはめ
1. 競売開始決定正本が債務者側に送達された時点で、被担保債権全額について民法155条による時効中断の効力が発生した。 2. しかし、債権者が競売の申立てを自ら取り下げている。これは民法154条にいう「権利者の請求により取り消されたとき」と同視できるため、時効中断の効力は遡及的に消滅したといえる。 3. また、競売申立て自体に「催告」としての効力は認められないため、競売手続の継続を理由とした催告の効力維持(及びその後の裁判上の請求による時効中断)を認める余地もない。
結論
競売の取下げにより時効中断の効力は遡及的に消滅しており、他に中断事由が認められない以上、主債務は時効により消滅した。したがって、附従性により本件連帯保証債務も消滅する。
実務上の射程
物上保証人への競売開始決定の送達が債務者への時効中断(差押え)効を生むとする民法155条の準用を確認しつつ、取下げによる遡及的消滅(154条類推)を認めた重要判例。答案では、時効中断の効力の有無を検討する際、手続が完了したか取下げ・却下されたかを区別して適用する必要がある。
事件番号: 平成6(オ)2325 / 裁判年月日: 平成7年3月10日 / 結論: 棄却
物上保証人は、債務者の承認により被担保債権について生じた消滅時効中断の効力を否定することができない。
事件番号: 昭和46(オ)1015 / 裁判年月日: 昭和47年12月26日 / 結論: 棄却
更生担保権の届出がなされても、更生担保権確定の訴が、民訴法二三八条により取り下げられたものとみなされたときは、右届出は、時効中断の効力を生じないと解すべきである。
事件番号: 昭和38(オ)412 / 裁判年月日: 昭和39年8月13日 / 結論: 棄却
不動産所有権を取得したが本登記手続を経ない仮登記権利者は、右不動産上の抵当権者に対し被担保債務が弁済されたことを理由に当該抵当権設定登記の抹消登記手続を請求し得ない。
事件番号: 平成1(オ)653 / 裁判年月日: 平成元年10月13日 / 結論: 棄却
不動産強制競売手続において催告を受けた抵当権者がする債権の届出は、その届出に係る債権に関する裁判上の請求、破産手続参加又はこれらに準ずる時効中断事由に該当しない。