譲渡担保権者から被担保債権の弁済期後に目的不動産を譲り受けた第三者は、譲渡担保権者に対する清算金支払請求権を被担保債権として目的不動産について留置権を有する譲渡担保権設定者に対し、右請求権の消滅時効を援用することができる。
譲渡担保権者から目的不動産を譲り受けた第三者と譲渡担保権設定者の清算金支払請求権の消滅時効の援用
民法145条,民法369条(譲渡担保)
判旨
譲渡担保権者から弁済期後に目的物を譲り受けた第三者は、設定者が有する清算金支払請求権の消滅により、所有権行使に対する留置権等の制約を免れる直接の利益を受けるため、民法145条の「当事者」として同請求権の消滅時効を援用できる。
問題の所在(論点)
譲渡担保権者から目的物を譲り受けた第三者は、譲渡担保権設定者が譲渡担保権者に対して有する清算金支払請求権につき、民法145条の「当事者」として消滅時効を援用できるか。
規範
民法145条にいう「当事者」として時効を援用し得る者は、権利の消滅により直接利益を受ける者に限定される。譲渡担保の目的物の譲受人は、清算金支払請求権が消滅することで、設定者からの留置権主張による引渡拒絶や競売による所有権喪失の危険という制約を免れる地位にあるため、「直接利益を受ける者」に当たる。
重要事実
設定者(被上告人)はDから借入れを行い、本件不動産を譲渡担保に供したが、返済を怠った。譲渡担保権者Dは弁済期後、本件不動産を第三者(上告人)に贈与し、所有権移転登記を完了した。設定者はDに対し清算金支払請求権を取得したが、これを行使せず10年が経過した。上告人が設定者に対し建物の明渡しを求めたところ、設定者は清算金支払との引換給付(留置権)を主張し、上告人は清算金債権の消滅時効を援用した。
事件番号: 平成5(オ)358 / 裁判年月日: 平成9年4月11日 / 結論: 棄却
譲渡担保権設定者は、譲渡担保権の実行として譲渡された不動産を取得した者からの明渡請求に対し、譲渡担保権者に対する清算金支払請求権を被担保債権とする留置権を主張することができる。
あてはめ
上告人はDから弁済期後に目的物の贈与を受けた第三者であり、所有権を取得している。設定者が清算金請求権を被担保債権とする留置権を主張した場合、上告人は無条件での引渡しを受けられず、競売により所有権を失う制約下にある。清算金請求権が消滅すれば、上告人はこの制約を免れるため、直接の利益がある。なお、設定者は上告人に対し時効中断措置を講じ得ないが、債務者Dに対し措置を講じれば留置権の性質上、上告人にも効力が及ぶため、不当な不利益はない。
結論
譲渡担保権の目的物の譲受人は清算金支払請求権の消滅時効を援用できる。本件では10年の時効が完成しており、中断の立証もないため、設定者の引換給付の抗弁は認められず、無条件の明渡し請求が認められる。
実務上の射程
消滅時効の援用権者の範囲に関する重要判例。譲渡担保における「清算金」と「留置権」の関係を前提としつつ、物権的地位を有する第三者の法的保護を認めた。答案上は、145条の「直接の利益」の具体的あてはめとして、留置権による制約の解消という構成を用いるべきである。
事件番号: 平成1(オ)23 / 裁判年月日: 平成6年2月22日 / 結論: 破棄差戻
譲渡担保権者が被担保債権の弁済期後に目的不動産を譲渡した場合には、譲渡担保を設定した債務者は、譲受人がいわゆる背信的悪意者に当たるときであると否とにかかわらず、債務を弁済して目的不動産を受け戻すことができない。