一、甲所有の物を買受けた乙が、売買代金を支払わないままこれを丙に譲渡した場合には、甲は、丙からの物の引渡請求に対して、未払代金債権を被担保債権とする留置権の抗弁権を主張することができる。 二、物の引渡請求に対する留置権の抗弁を認容する場合において、その物に関して生じた債務の支払義務を負う者が、原告ではなく第三者であるときは、被告に対し、その第三者から右債務の支払を受けるのと引換えに物の引渡をすることを命ずるべきである。
一、甲所有の物を買受けた乙が売買代金を支払わないままこれを丙に譲渡した場合における丙の甲に対する物の引渡請求と甲の留置権の抗弁 二、物の引渡請求に対する留置権の抗弁を認容する場合においてその被担保債権の支払義務者が第三者であるときの判決主文
民法295条,民訴法186条
判旨
不動産売買において残代金の支払に代えて他不動産を譲渡する代物弁済の予約がなされた場合でも、履行完了までは残代金債権は消滅せず、売主は当該債権を被担保債権として留置権を主張できる。また、留置権は物権であるため、目的物の譲受人に対しても行使でき、裁判所は引換給付判決を言い渡すべきである。
問題の所在(論点)
売買代金の支払に代えて不動産を譲渡する合意がある場合、売主は依然として代金債権を有するか。また、その債権に基づき、売買目的物の譲受人に対して留置権を主張できるか。さらに、譲受人が債務者でない場合の判決の形式はどうあるべきか。
規範
1.代物弁済の予約がなされた場合、その予約が完結して所有権移転の対抗要件が具備されるまでは、原則として元の債権は消滅しない。2.同一の売買契約から生じた代金債権と目的物の引渡義務との間には、民法295条1項の牽連性が認められる。3.留置権は物権であるから、成立後に目的物を取得した譲受人に対しても対抗できる。4.譲受人が被担保債権の債務者でない場合、譲受人からの明渡請求に対し、債務者による弁済との引換給付判決をなすべきである。
重要事実
上告人は、Dに対し本件土地建物を売り渡したが、代金のうち345万円については、Dが他所に建物を新築して上告人に譲渡するという代物弁済の予約がなされた。Dは未だ建物を譲渡していない。一方、被上告人はDから本件土地建物を担保として取得し、代物弁済により所有権移転登記を経由した。被上告人が上告人に対し建物の明渡を求めたところ、上告人はDに対する残代金債権を被担保債権とする留置権を主張した。
あてはめ
Dによる提供建物の譲渡(代物弁済)は未了であるため、上告人の345万円の残代金債権は消滅せず存続している。この債権は本件建物の売買契約から生じたものであり、建物との牽連性が認められる。したがって、上告人はDに対し留置権を取得している。留置権は物権であるため、Dから所有権を得た被上告人に対してもこれを主張できる。被上告人はDの債務を承継したわけではないが、留置権の負担を負う。よって、被上告人の明渡請求に対し、留置権の抗弁を認めるべきである。
結論
上告人は、Dから残代金345万円の支払を受けるのと引換えに、本件建物を明け渡せ。被上告人のその余の請求は棄却する。
実務上の射程
二重譲渡の事案等において、代金未払のまま所有権が転々とした場合に、売主が占有を継続していれば譲受人に対しても留置権を主張できることを示した。引換給付の内容が「被告(譲受人)の支払」ではなく「債務者(前主)の支払」となる点が、債権債務関係のない第三者との関係における実務上の重要なポイントである。
事件番号: 平成5(オ)358 / 裁判年月日: 平成9年4月11日 / 結論: 棄却
譲渡担保権設定者は、譲渡担保権の実行として譲渡された不動産を取得した者からの明渡請求に対し、譲渡担保権者に対する清算金支払請求権を被担保債権とする留置権を主張することができる。
事件番号: 昭和35(オ)955 / 裁判年月日: 昭和38年4月23日 / 結論: 棄却
建物賃借人は、その賃借権を保全するために、建物賃貸人に代位して、借地法第一〇条の規定による建物買収請求権を行使することはできない。