建物賃借人は、その賃借権を保全するために、建物賃貸人に代位して、借地法第一〇条の規定による建物買収請求権を行使することはできない。
建物賃貸人の有する借地法第一〇条の規定による建物売買請求権と建物賃借人による代位行使の許否。
民法423条,借地法10条
判旨
建物賃借人が、自己の賃借権を保全するために、建物所有者である債務者の有する建物買取請求権を代位行使することは認められない。債務者が得る利益が代金債権に過ぎない場合、賃借権という権利の保全にはつながらないからである。
問題の所在(論点)
建物賃借人が、建物所有者の有する建物買取請求権を、自己の賃借権を保全するための被保全権利として代位行使(民法423条)することが認められるか。
規範
債権者が民法423条により債務者の権利を代位行使するためには、その権利の行使により債務者が利益を享受し、かつ、その利益によって債権者の権利が保全されるという関係が存在することを要する。
重要事実
建物賃借人である上告人らは、建物所有者(債務者)であるDが土地賃貸人(被上告人)に対して有する建物買取請求権を、自己の賃借権を保全するために代位行使すると主張した。これにより、建物所有権がDから土地賃貸人に移転し、賃貸人たる地位も承継されることで、被上告人による建物明渡請求を拒むことを意図したものである。
あてはめ
上告人らが代位行使により保全しようとする債権は建物に関する賃借権である。これに対し、代位行使によって債務者Dが受ける利益は建物の代金債権(金銭債権)に過ぎない。建物所有権を失うことは債務者にとって不利益ですらあり、また、獲得される金銭債権によって上告人らの賃借権が保全される関係にあるとはいえない。
結論
建物賃借人による建物買取請求権の代位行使は認められず、上告人らの主張は失当である。
実務上の射程
債権者代位権の行使における「保全の必要性」と「行使の適当性」を厳格に解釈した事例である。特定物債権の保全であっても、代位行使によって得られる結果が被保全権利の実現に寄与しない場合には、代位権の転用は否定される。司法試験においては、代位行使の目的と結果の不一致を指摘する際の論拠として有用である。
事件番号: 昭和35(オ)850 / 裁判年月日: 昭和36年11月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物賃貸借の更新拒絶に必要な「正当な事由」の有無は、賃貸人および賃借人双方の利害得失を比較考量して判断すべきである。賃貸人が賃料受領を明確に拒絶しているなどの事情がある場合、更新拒絶を認めるに足りる正当事由があるとは認められない。 第1 事案の概要:賃貸人(上告人)が、賃借人(被上告人)に対し、建…
事件番号: 昭和35(オ)460 / 裁判年月日: 昭和35年9月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法188条による権利の推定は、占有者とその占有の伝来した前主との間には及ばない。したがって、他人の所有地を占有する者が正権原(賃借権等)を主張する場合、その立証責任は占有者側にある。 第1 事案の概要:被上告人(土地所有者)が上告人(占有者)に対し、所有権に基づき建物の収去と土地の明渡しを請求し…
事件番号: 昭和32(オ)164 / 裁判年月日: 昭和35年4月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人が、一時使用目的の借地契約における解約特約に基づき、土地所有者に代位して不法占有者に対し建物の収去及び土地の明渡を請求することは適法である。 第1 事案の概要:土地所有者Dに対し、建物所有目的の賃借権を有する債権者(被上告人)が、債務者Dに代位して、土地の一部を占有する占有者(上告人)に対し…
事件番号: 昭和37(オ)1165 / 裁判年月日: 昭和39年1月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約の合意解除が認められない状況下で、転借人が賃貸人の承諾を得て賃借人(転貸人)に賃料を支払った場合、その支払は民法613条の趣旨に照らし、賃貸人に対する関係でも有効な支払として免責の効果が生じる。 第1 事案の概要:賃貸人(上告人)と賃借人(訴外D)との間の賃貸借契約が存続している状況にお…