遺言者の生存中に推定相続人が提起した遺贈を内容とする遺言の無効確認の訴えは、遺言者が心神喪失の常況にあって、遺言者による当該遺言の取消し又は変更の可能性が事実上ないとしても、不適法である。
心神喪失の常況にある遺言者の生存中に推定相続人が提起した遺贈を内容とする遺言の無効確認の訴えの適否
民訴法134条,民法964条,民法985条,民法1022条
判旨
遺言は遺言者の死亡によって初めて効力が生じるため、遺言者の生存中は遺贈による何らの法律関係も発生せず、受遺者の地位は確認の訴えの対象となる権利又は法律関係に該当しない。たとえ遺言者が心神喪失の常況にあり、遺言の取消しや変更の可能性が事実上ない場合であっても、生存中の遺言無効確認の訴えは不適法である。
問題の所在(論点)
遺言者が生存中であり、かつ心神喪失等のため遺言の撤回・変更が事実上不可能な状況にある場合において、遺言の無効確認を求める訴えに「確認の利益」があるか。特に、受遺者の地位が「現在の法律関係」といえるか。
規範
確認の訴えは、現在の権利又は法律関係の存否を対象とする必要がある。遺言は遺言者の死亡により効力が生じ(民法985条1項)、遺言者は生存中いつでも取り消しうる(同1022条)ため、生存中は何ら法律関係を発生させない。受遺者の地位は、将来遺贈の効力が生じた際に権利を取得しうる「事実上の期待」を有する地位にすぎず、確認の訴えの対象となる「権利又は法律関係」に該当しない。
重要事実
被上告人(養子・唯一の推定相続人)は、遺言者(養親)がアルツハイマー型老人性痴呆により心神喪失の常況(禁治産宣告済)であり、病状回復の見込みがなく遺言の撤回等が不可能な状態にあるとして、受遺者(おい)に対する公正証書遺言の無効確認を求めて提訴した。原審は、遺言の取消し等の可能性がないことが明白な場合には、生存中であっても訴えを適法と判断できるとしていた。
事件番号: 昭和30(オ)95 / 裁判年月日: 昭和31年10月4日 / 結論: その他
遺言者の生前の遺言無効確認の訴は不適法である。
あてはめ
遺言者の死亡以前は、民法994条1項の通り受遺者が先に死亡すれば効力を生じない等、不安定な地位にある。本件において遺言者が心神喪失の常況にあり、事実上遺言の変更が困難であったとしても、法律上の性質として受遺者の地位が権利に昇格するわけではない。被上告人が主張する「相続財産の減少をあらかじめ防止する」という目的は、将来の相続への期待にすぎず、現在の法律関係を画定する利益とは認められない。よって、本件訴えは対象選択を誤っており不適法である。
結論
遺言者の生存中に、当該遺言の無効確認を求める訴えは不適法である(却下すべき)。
実務上の射程
遺言の効力に関する争いは、遺言者の生存中には原則として裁判手続になじまないことを示した。たとえ意思能力の欠如により遺言の撤回が不可能な特段の事情があっても、判例は「現在の法律関係」性を厳格に否定するため、実務上、遺言無効確認の訴えを提起できるのは遺言者の死後に限られると解すべきである。
事件番号: 平成3(オ)424 / 裁判年月日: 平成6年10月13日 / 結論: その他
民法九五八条の三第一項の規定による相続財産の分与の審判前に特別縁故者に当たると主張する者が提起した遺言無効確認の訴えは、訴えの利益を欠く。
事件番号: 平成9(オ)2060 / 裁判年月日: 平成11年9月14日 / 結論: 棄却
いわゆる危急時遺言に当たり、立ち会った証人の一人があらかじめ作成された草案を一項目ずつ読み上げ、遺言者が、その都度うなずきながら「はい」などと返答し、最後に右証人から念を押され了承する旨を述べたなど判示の事実関係の下においては、民法九七六条一項にいう遺言の趣旨の口授があったものということができる。