民法九五八条の三第一項の規定による相続財産の分与の審判前に特別縁故者に当たると主張する者が提起した遺言無効確認の訴えは、訴えの利益を欠く。
相続財産分与の審判前に特別縁故者に当たると主張する者が提起した遺言無効確認の訴えと訴えの利益の有無
民法958条の3第1項,民訴法225条
判旨
特別縁故者として相続財産の分与を受ける可能性のある者は、家庭裁判所の審判前には相続財産に対する私法上の権利を有さず、遺言の無効確認を求める法律上の利益(訴えの利益)を有しない。
問題の所在(論点)
相続人の存在が明らかでない場合において、特別縁故者として相続財産の分与を受ける可能性のある者に、遺言無効確認の訴えを提起する法律上の利益(民事訴訟法134条参照)が認められるか。
規範
確認の訴えが適法であるためには、原告に「法律上の利益」が認められる必要があり、これは現在の権利又は法的地位に対する不安・危険を除去するために当該確認判決を得ることが有効かつ適切である場合に認められる。特別縁故者(民法958条の3第1項)として相続財産の分与を受ける権利は、家庭裁判所の審判によって初めて形成される権利であり、その審判前においては相続財産に対する具体的な私法上の権利とはいえない。
重要事実
遺言者D(相続人不存在)が作成した自筆証書遺言について、Dのいとこ(被上告人B1)及びその妻(被上告人B2)が、Dは作成当時意思能力を欠いていたと主張して、受遺者(上告人ら)を相手取り遺言無効確認の訴えを提起した。B1らは民法958条の3第1項所定の特別縁故者に該当するとして、原審は原告適格(訴えの利益)を認めたが、これに対し受遺者側が上告した。
あてはめ
被上告人B1らは、本件遺言が無効であれば、民法958条の3第1項に基づき相続財産の分与を受ける可能性がある立場にある。しかし、この分与を受ける権利は家庭裁判所の裁量的判断(審判)を経て形成されるものであり、審判がなされる前においては、相続財産に対して何ら具体的な私法上の権利を確定的に取得しているわけではない。したがって、遺言の無効を確認したとしても、それだけで直ちにB1らの権利が確定する関係にはなく、現在の法的地位に直接の影響を及ぼす法律上の利益があるとはいえない。
結論
特別縁故者に当たる可能性がある者であっても、審判前である以上、遺言の無効確認を求める法律上の利益を有しない。したがって、本件訴えは不適法として却下されるべきである。
実務上の射程
訴えの利益における「対象の適格」や「原告適格」の文脈で用いられる。特定の形成的な地位(審判待ちの状態)にすぎない者は、現在の権利関係を確定する確認の訴えを提起できないことを示す射程を持つ。相続人不存在の事案において、特別縁故者候補による遺言無効主張を門前払いする際の決定的な根拠となる。
事件番号: 平成7(オ)1631 / 裁判年月日: 平成11年6月11日 / 結論: 破棄自判
遺言者の生存中に推定相続人が提起した遺贈を内容とする遺言の無効確認の訴えは、遺言者が心神喪失の常況にあって、遺言者による当該遺言の取消し又は変更の可能性が事実上ないとしても、不適法である。
事件番号: 平成10(オ)1037 / 裁判年月日: 平成13年3月27日 / 結論: 棄却
遺言公正証書の作成に当たり当該遺言の証人となることができない者が同席していたとしても,この者によって遺言の内容が左右されたり,遺言者が自己の真意に基づいて遺言をすることを妨げられたりするなど特段の事情のない限り,同遺言が無効となるものではない。
事件番号: 昭和30(オ)95 / 裁判年月日: 昭和31年10月4日 / 結論: その他
遺言者の生前の遺言無効確認の訴は不適法である。