相続人の一人が遺産分割協議に従い他の相続人に対し代償金を交付して単独で相続した不動産を売却した場合、譲渡所得の計算上、右代償金を右不動産の取得費に算入することはできない。
他の相続人に代償金を交付して単独で相続した不動産を売却した場合の譲渡所得の計算上右代償金を取得費に算入することの可否
所得税法33条3項,所得税法60条,民法909条
判旨
代償分割により遺産を取得した場合、その財産は相続開始時に遡って単独相続したものとみなされる。したがって、他の相続人に支払った代償金やその借入金利息は、所得税法上の譲渡所得計算における「取得費」に算入することはできない。
問題の所在(論点)
代償分割によって遺産を取得した相続人が、その後に当該不動産を譲渡した場合、他の相続人に支払った「代償金」および「代償金支払のための借入金利息」を、所得税法上の譲渡所得の計算における「取得費」に算入できるか。
規範
遺産分割の効果は相続開始の時に遡る(民法909条本文)。代償分割により遺産を取得した場合、それは共有持分の譲渡を受けたのではなく、相続開始時に遡って当該遺産を単独相続したと解される。したがって、当該財産は所得税法60条1項1号の「相続」により取得した財産に該当し、その取得費は被相続人の取得価額を引き継ぐべきものであって、後天的に発生した代償金等は取得費を構成しない。
重要事実
上告人は、共同相続人間で行われた遺産分割協議に基づき、他の相続人に対して代償金(金銭)を交付するのと引き換えに、本件不動産の全部を自己の所有とした(代償分割)。その後、上告人は当該不動産を第三者に売却した。上告人は、売却に伴う譲渡所得の計算において、他の相続人に支払った代償金およびその支払のために銀行から借り入れた資金の利息相当額を取得費として算入し、所得税の申告を行った。
事件番号: 平成13(行ヒ)276 / 裁判年月日: 平成17年2月1日 / 結論: 破棄自判
1 受贈者が贈与者から資産を取得するために要した付随費用の額は,受贈者が同資産を譲渡した場合に所得税法60条1項に基づいてされる譲渡所得の金額の計算において,同法38条1項にいう「資産の取得に要した金額」に当たる。 2 ゴルフ会員権の受贈者が贈与を受けた際に支払った名義書換手数料の額は,受贈者が同会員権を譲渡した場合に…
あてはめ
遺産分割協議により、上告人が代償金を交付して遺産全部を取得したことは、結局、上告人が当該遺産を相続開始の時に単独相続したことを意味する。これは他の共有者から持分の譲渡を受けたものではないため、本件不動産は所得税法60条1項1号所定の「相続」による取得に該当する。この場合、譲渡所得の計算における取得費は相続前から引き続き所有していたものとして扱われるため、相続後の負担である代償金やその借入金利息は、不動産自体の取得に要した費用とは認められない。
結論
代償金およびその借入金利息を取得費に算入することはできない。
実務上の射程
代償分割における代償金の法的性質が「相続による取得」の一部であり、売買等の対価ではないことを明確にした射程の広い判例である。税法上の取得費算入の可否だけでなく、遺産分割の遡及効という民法の基本原則が税務解釈にも直接反映されることを示す。答案では、譲渡所得の計算(所法33条、38条、60条)が問題となる場面で、代償分割の遡及的性質を根拠として取得費算入を否定する文脈で使用する。
事件番号: 昭和61(行ツ)83 / 裁判年月日: 平成4年9月10日 / 結論: 棄却
個人の居住の用に供される不動産の譲渡による譲渡取得の金額の計算上、当該不動産の取得のために代金の全部又は一部の借入れをした場合における借入金の利子は、当該不動産の使用開始の日以前の期間に対応するものに限り、所得税法三八条にいう「資産の取得に要した金額」に含まれる。 (意見及び反対意見がある。)
事件番号: 昭和61(行ツ)115 / 裁判年月日: 平成4年7月14日 / 結論: 棄却
個人の居住の用に供される不動産の譲渡による譲渡所得の金額の計算上、当該不動産の取得のために代金の全部又は一部の借入れをした場合における借入金の利子は、当該不動産の使用開始の日以前の期間に対応するものに限り、所得税法三八条一項にいう「資産の取得に要した金額」に含まれる。
事件番号: 平成16(行ヒ)86 / 裁判年月日: 平成18年4月25日 / 結論: その他
1 納税申告手続を委任された税理士が納税者に無断で隠ぺい,仮装行為をして過少申告をした場合において,納税者が同税理士を信頼して適正な申告を依頼し,納税資金を交付したにもかかわらず,同税理士が上記行為をして納税資金を着服したものであり,納税者において同税理士が隠ぺい,仮装行為を行うことを容易に予測し得たということはできず…
事件番号: 平成17(行ヒ)96 / 裁判年月日: 平成18年11月16日 / 結論: その他
納税者が平成11年分の所得税の確定申告において勤務先の日本法人の親会社である外国法人から付与されたストックオプションの権利行使益を一時所得として申告したところ,同権利行使益が給与所得に当たるとして増額更正がされた場合において,(1)外国法人である親会社から日本法人である子会社の従業員等に付与されたストックオプションに係…