1 受贈者が贈与者から資産を取得するために要した付随費用の額は,受贈者が同資産を譲渡した場合に所得税法60条1項に基づいてされる譲渡所得の金額の計算において,同法38条1項にいう「資産の取得に要した金額」に当たる。 2 ゴルフ会員権の受贈者が贈与を受けた際に支払った名義書換手数料の額は,受贈者が同会員権を譲渡した場合に所得税法60条1項に基づいてされる譲渡所得の金額の計算において,同法38条1項にいう「資産の取得に要した金額」に算入される。
1 受贈者が贈与者から資産を取得するために要した付随費用の額と所得税法38条1項にいう「資産の取得に要した金額」 2 ゴルフ会員権の受贈者が贈与を受けた際に支払った名義書換手数料の額と,所得税法38条1項にいう「資産の取得に要した金額」
所得税法33条3項,所得税法38条1項,所得税法60条1項,民法第3編第2章 契約
判旨
所得税法60条1項の規定は、贈与等による資産の増加益に対する課税を繰り延べる趣旨であり、受贈者が資産を取得するために支出した付随費用は、同条に基づき算定される譲渡所得の金額の計算においても「資産の取得に要した金額」(同法38条1項)に含まれる。
問題の所在(論点)
所得税法60条1項1号に掲げる贈与により取得した資産を譲渡した場合の譲渡所得の金額の計算において、受贈者が当該資産の取得に際して支出した名義書換手数料等の付随費用は、同法38条1項にいう「資産の取得に要した金額」に含まれるか。
規範
譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによる増加益を資産の移転時に清算して課税する趣旨である。所得税法60条1項が、贈与等による取得につき「引き続き所有していたものとみなす」としたのは、その時点では増加益が顕在化せず納税者の納得を得難いため課税を繰り延べたものにすぎない。したがって、同条の適用がある場合でも、受贈者の保有期間に係る増加益の計算において、受贈者が資産を取得するための付随費用として支出した額は、「資産の取得に要した金額」(同法38条1項)として控除できる。
重要事実
上告人の父はゴルフクラブ会員権を1200万円で取得した。上告人は、平成5年に父から当該会員権の贈与を受け、その際、ゴルフ場経営会社に対し名義書換手数料(本件手数料)82万4000円を支払った。平成9年、上告人は当該会員権を100万円で譲渡した。上告人は、譲渡所得の計算において父の取得費1200万円に本件手数料を加算して申告したが、税務署長は本件手数料を取得費と認めず、所得税の更正処分等を行った。
あてはめ
本件手数料は、上告人が本件会員権を取得するために支出した付随費用である。所得税法60条1項は、贈与者と受贈者の保有期間を通算し、課税を繰り延べるための規定であって、受贈者の保有期間に係る増加益の計算において当然に控除されるべき費用まで否定するものではない。受贈者の支出した付随費用を控除しないとすれば、贈与者・受贈者を通じた合計の増加益を超えて所得を把握することになり、譲渡所得課税の趣旨に反する。よって、本件手数料は「資産の取得に要した金額」に該当し、取得費に含まれるべきである。
結論
受贈者が支出した名義書換手数料は取得費に含まれる。本件手数料を取得費として認めなかった更正処分等は違法であり、これを取り消すべきである。
実務上の射程
所得税法60条1項が適用される贈与・相続(限定承認を除く)の事案において、受贈者・相続人が独自に支出した名義書換費用、登記費用、不動産取得税などの「取得の付随費用」を取得費に加算できることを示した。答案上は、同条の「引き続き所有していたものとみなす」という文言の解釈として、課税の繰延べという制度趣旨から論証する際に活用する。
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