金員の着服を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求訴訟において、右着服金員相当額の不当利得返還請求がその時効期間経過後に追加された場合、両請求が、基本的な請求原因事実を同じくする請求であり、着服金相当額の返還を請求する点において経済的に同一の給付を目的とする関係にあるなど判示の事情の下においては、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟の係属中は、不当利得返還請求権につき催告が継続し、不当利得返還請求の追加により、その消滅時効は、確定的に中断されたものというべきである。
不法行為に基づく損害賠償請求訴訟の係属によって不当利得返還請求権の消滅時効が中断するとされた事例
民法147条1号,民法153条,民訴法147条
判旨
不法行為に基づく損害賠償請求と基本的な請求原因事実を同じくし、経済的に同一の給付を目的とする不当利得返還請求は、損害賠償請求の訴えの提起により、本件訴訟の係属中、催告(民法153条・旧法)が継続していたものと解される。
問題の所在(論点)
先行する損害賠償請求等の訴えの提起によって、後に訴えが追加された不当利得返還請求権についても消滅時効中断(民法147条1号、153条・旧法)の効力が及ぶか。
規範
不法行為に基づく損害賠償請求の訴えが提起された場合、その訴訟物と①基本的な請求原因事実を同じくし、かつ、②経済的に同一の給付を目的とする関係にある不当利得返還請求権については、訴えの提起により権利行使の意思が継続的に表示されているものといえる。したがって、訴訟係属中は当該不当利得返還請求権について「催告」が継続しているものと解され、その後に訴えの追加的変更等により当該不当利得返還請求がなされれば、時効中断の効力が確定的に生じる。
重要事実
上告人Aは、被相続人Dの生前、D所有の預金証書等を持ち出し、預金の払戻金や株券売却代金を着服した。Dの共同相続人である被上告人らは、Aに対し不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起した。また、一部の株券についてはAが所持していると誤信し(Aによる売却の秘匿が原因)、物の引渡し等を請求していた。その後、訴訟の過程で不当利得返還請求を追加したが、Aは追加時点ですでに10年の消滅時効が完成していると主張して時効を援用した。
事件番号: 昭和50(オ)878 / 裁判年月日: 昭和54年7月10日 / 結論: 破棄差戻
一 旧民法下の遺産相続による共同相続人の一人甲が、相続財産のうち自己の本来の相続持分を超える部分について他の共同相続人乙の相続権を否定し、その部分もまた自己の相続持分に属すると称してこれを占有管理し、乙の相続権を侵害しているため、乙が右侵害の排除を求める場合には、相続回復請求権の規定の適用があるが、甲においてその部分が…
あてはめ
被上告人らが追加した不当利得返還請求は、Aの着服という事実を共通の基礎としており、損害賠償請求と基本的な請求原因事実を同じくする(要件①)。また、いずれも着服金員相当額の支払いを求めるものであり、経済的に同一の給付を目的とする(要件②)。さらに、株券の引渡し請求についても、Aが売却を秘匿していたために選択された手段にすぎず、実質的には売却代金相当額の返還を求める意思が含まれていたといえる。よって、当初の訴え提起により不当利得返還請求権の権利行使の意思が継続的に表示されており、催告としての効力が継続していたと評価される。その後の訴えの追加により、時効中断の効果が確定的に生じたといえる。
結論
当初の訴え提起により、追加された不当利得返還請求権についても催告の効力が継続していたため、時効中断が認められ、消滅時効は完成しない。
実務上の射程
訴訟途中で訴訟物を切り替えた(あるいは追加した)際の時効完成を回避する法理として重要である。実務上は、請求の基礎が同一であれば、当初の提訴に「催告」としての効力を認め、後の追加時に中断を確定させる。ただし、現行民法下では「催告」による完成猶予(150条)の期間制限(6ヶ月)との関係が問題となり得るが、本判例の趣旨は訴訟係属中の「継続的催告」を認める点にあり、期間制限を柔軟に解釈する際の指針となる。
事件番号: 平成17(受)144 / 裁判年月日: 平成18年1月17日 / 結論: その他
甲が時効取得した不動産について,その取得時効完成後に乙が当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した場合において,乙が,当該不動産の譲渡を受けた時に,甲が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており,甲の登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在するときは,乙は背信的悪意者に当たる。
事件番号: 平成20(受)1207 / 裁判年月日: 平成21年2月17日 / 結論: 棄却
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