一 旧民法下の遺産相続による共同相続人の一人甲が、相続財産のうち自己の本来の相続持分を超える部分について他の共同相続人乙の相続権を否定し、その部分もまた自己の相続持分に属すると称してこれを占有管理し、乙の相続権を侵害しているため、乙が右侵害の排除を求める場合には、相続回復請求権の規定の適用があるが、甲においてその部分が乙の持分に属することを知つているとき、又はその部分につき甲に相続による持分があると信ぜられるべき合理的な事由がないときは、同規定の適用が排除される。 二 旧民法下の遺産相続による共同相続人の一人乙女が遺産分割前に他の共同相続人甲男を家督相続人に指定して隠居したが、右隠居時に乙に胎児がいたことにより右指定が無効であり、乙が遺産相続権を失わないため、甲において相続財産のうち乙の相続部分もまた右指定により自己に帰属したとして同部分に対し占有管理を続けたことが乙の遺産相続権に対する侵害となる場合においても、胎児が生後まもなく死亡したため、甲において右指定の無効を知りえず、かつ、その無効を知りえなかつたことが客観的にも無理からぬものであるときは、乙の甲に対する右侵害排除を求める請求について、相続回復請求権の規定の適用がある。
一 旧民法下の遺産相続による共同相続人の一人によつて相続権を侵害された他の共同相続人が右侵害排除を求める場合と相続回復請求権の規定の適用 二 旧民法下の遺産相続による共同相続人の一人によつて相続権を侵害された他の共同相続人の右侵害排除を求める請求について相続回復請求権の規定が適用されるべき一場合
旧民法966条,旧民法993条,民法884条
判旨
共同相続人間で相続持分権の侵害が生じた場合、侵害者が他方の持分を侵害していることを知り、または知るべき合理的事由がない「善意無過失」の場合に限り、相続回復請求権の消滅時効の規定が適用される。
問題の所在(論点)
共同相続人相互間における相続権侵害について、相続回復請求権の消滅時効(旧民法993条・966条、現行884条)が適用されるための要件。
規範
共同相続人の一人が、本来の持分を超える部分が他の共同相続人の持分に属することを知りながら、またはその部分についても自己に相続による持分があると信ずるべき合理的事由がないにもかかわらず、その部分を占有管理している場合には、相続回復請求権(旧民法993条、966条、現行民法884条)の規定は適用されない。同規定が適用されるためには、侵害者が、自己の本来の持分を超える部分についても自己に持分があると信じ、かつ、そう信じるにつき合理的事由がある(善意無過失である)ことを要する。
重要事実
訴外Dの死亡(昭和17年)により、上告人(代襲相続人)、訴外F、訴外Gが共同相続した。しかし、FとGは昭和43年、対象不動産について二人で持分を独占する登記を経由した上で、被上告人(Fの長男)へ贈与を原因とする移転登記を行った。これに対し上告人が持分権移転登記を求めたところ、被上告人は、上告人がかつてFを隠居に伴う家督相続人に指定したため、上告人の権利は消滅していると主張。これに対し上告人は、家督相続の指定当時、胎児が存在したため指定は無効であると反論した。
あてはめ
本件において、Fが上告人から家督相続人の指定を受けていた事実は、Fが「自己に持分がある」と信じる根拠になり得る。仮に、胎児の存在により家督相続の指定が法律上無効であったとしても、その子がすぐ死亡した等の事情があり、Fにおいて無効であることを知り得ず、かつ知り得なかったことが客観的に無理からぬもの(合理的事由がある)とされるならば、Fは相続回復請求権の規定を援用できる「表見相続人」に該当する可能性がある。その場合、Fの特定承継人である被上告人も消滅時効を援用し得る。原審はこの点(Fの善意無過失)を十分に審理していない。
結論
共同相続人間に相続回復請求権の規定を適用するには、侵害者に善意無過失が必要である。本件はその有無が不明であるため、さらに審理を尽くさせるべく原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
共同相続人による持分侵害に対し、他方の相続人が共有持分権に基づく登記抹消請求等を行う際、被告側から「相続回復請求権の消滅時効」の抗弁が出された場合の再抗弁として、相手方の悪意または有過失を主張・立証する際の規範となる。判例の「合理的事由」は事実上の無過失を指すと解される。
事件番号: 昭和51(オ)639 / 裁判年月日: 昭和54年4月17日 / 結論: 破棄差戻
一 共同相続人の一人甲が、他の共同相続人乙丙の承諾を得ることなく乙丙名義で相続放棄の申述をし、これに基づき相続財産に属する不動産につき甲単独名義の相続登記をして乙丙の相続権を侵害している場合においては、右侵害排除の趣旨で甲単独名義の登記を甲乙丙共有名義の登記に更正することを求める乙丙の請求について、民法八八四条は適用さ…
事件番号: 昭和36(オ)680 / 裁判年月日: 昭和38年7月9日 / 結論: 棄却
後見人が被後見人の所有土地を同人のために占有していたにすぎない場合には、後見人が自ら所有の意思を以て占有したものとはいえない。
事件番号: 昭和58(オ)49 / 裁判年月日: 昭和60年11月29日 / 結論: 破棄自判
一 自己の持分を登記上侵害されている共同相続人の一人がこれを侵害している他の複数の共同相続人に対して妨害排除としての実質を有する一部抹消(更正)登記手続を請求する訴訟は、右他の共同相続人全員を被告とすべき固有必要的共同訴訟ではない。 二 被相続人の不動産に関する登記義務が共同相続人によつて承継された場合における当該共同…