甲が時効取得した不動産について,その取得時効完成後に乙が当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した場合において,乙が,当該不動産の譲渡を受けた時に,甲が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており,甲の登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在するときは,乙は背信的悪意者に当たる。
不動産の取得時効完成後に当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した者が背信的悪意者に当たる場合
民法162条,民法177条
判旨
取得時効完成後の第三者が背信的悪意者に当たるためには、時効取得者が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識している必要がある。調査により時効取得の事実を知り得たとしても、多年にわたる占有継続の事実の認識を欠く場合は、直ちに背信的悪意者とは認められない。
問題の所在(論点)
不動産の時効完成後に当該不動産を譲り受け登記を了した者が、民法177条の「第三者」に当たらない背信的悪意者と評価されるための要件。特に、時効取得者による「多年にわたる占有継続の事実」の認識が必要か。
規範
1. 時効完成後の譲受人は「第三者」(民法177条)に該当し、登記を先に備えた者が優先するのが原則である。2. ただし、登記の欠缺を主張することが信義に反すると認められる事情がある「背信的悪意者」は、同条の「第三者」に当たらない。3. 時効完成後の譲受人が背信的悪意者に当たるというためには、譲受人が、譲受時に時効取得者が「多年にわたり当該不動産を占有している事実」を認識していることを要する。時効要件の充足をすべて具体的に認識している必要はないが、少なくとも多年にわたる占有継続の認識は不可欠である。
重要事実
被上告人は、昭和48年から本件通路部分を専用進入路としてコンクリート舗装し、占有使用を継続してきた。平成5年に20年の取得時効が完成したが、被上告人は登記を未了であった。その後、上告人らは平成7年および8年に本件土地を譲り受け、所有権移転登記を了した。上告人らは購入時、被上告人が当該地を通路として利用していること、及び利用できないと公道への出入りが困難になることは知っていたが、被上告人の占有が多年にわたるものであることを認識していたかは不明であった。
あてはめ
原審は、上告人らが調査をすれば時効取得を容易に知り得たこと等をもって背信的悪意者と認定した。しかし、背信的悪意者の認定には、単なる知る可能性(過失)ではなく、時効取得者による「多年にわたる占有継続の事実」の現実の認識が必要である。本件では、上告人らが被上告人による通路利用の現状を知っていたとしても、それが多年にわたる占有継続であることまで認識していたかが確定されていない。したがって、直ちに上告人らを背信的悪意者と断定することはできない。
結論
時効完成後の譲受人が背信的悪意者に該当するには、少なくとも時効取得者による多年にわたる占有継続の事実を認識している必要がある。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
時効完成後の譲受人(二重譲渡類似の類型)に対する判断枠組みを示す。単なる「悪意」や「調査可能性」だけでは足りず、長期占有という外形的事実の「認識」を要件とすることで、法的安定性と時効取得者の保護の調和を図っている。答案では、177条の背信的悪意者排除の法理を述べた上で、時効の場面特有の主観的要件として本件規範を提示すべきである。
事件番号: 昭和44(オ)1270 / 裁判年月日: 昭和46年11月30日 / 結論: 棄却
相続人が、被相続人の死亡により、相続財産の占有を承継したばかりでなく、新たに相続財産を事実上支配することによつて占有を開始し、その占有に所有の意思があるとみられる場合においては、被相続人の占有が所有の意思のないものであつたときでも、相続人は民法一八五条にいう「新権原」により所有の意思をもつて占有を始めたものというべきで…
事件番号: 昭和44(オ)727 / 裁判年月日: 昭和45年2月26日 / 結論: 棄却
民法一六二条にいう公然の占有とは、占有者が、占有の存在を知るにつき利害関係を有する者に対して、占有の事実をことさら隠蔽しないことをいうものと解すべきである。
事件番号: 昭和47(オ)1188 / 裁判年月日: 昭和48年10月5日 / 結論: 棄却
一、入会部落の総有に属する土地の譲渡を受けた同部落の構成員は、右譲渡前にこれを時効取得した者に対する関係において、民法一七七条にいう第三者にあたる。 二、一筆の土地の一部を時効取得した場合でも、右土地部分の所有権取得につき登記がないときは、時効完成後旧所有者からこれを買い受けた第三者に対抗することができない。