相続人が、被相続人の死亡により、相続財産の占有を承継したばかりでなく、新たに相続財産を事実上支配することによつて占有を開始し、その占有に所有の意思があるとみられる場合においては、被相続人の占有が所有の意思のないものであつたときでも、相続人は民法一八五条にいう「新権原」により所有の意思をもつて占有を始めたものというべきである。
相続と民法一八五条にいう「新権原」
民法185条,民法896条
判旨
他主占有者の相続人が、相続により承継した占有とは別に、事実上の支配により新たに占有を開始した場合には、所有の意思があれば「新権原」による自主占有への転換が認められるが、所有の意思の有無は客観的態様から厳格に判断される。
問題の所在(論点)
他主占有者の相続人が、相続とは別に事実上の支配を開始した場合、民法185条の「新権原」による自主占有への転換が認められるか。また、本件において「所有の意思」が認められるか。
規範
民法185条にいう「新権原」とは、占有者が他主占有から自主占有へ転換するための原因を指す。相続人が被相続人の他主占有を相続により承継した場合であっても、当該相続人が新たに当該不動産を事実上支配することにより独自の占有を開始したときは、同条にいう「新権原」により自主占有を開始したものと解するのが相当である。ただし、この場合に自主占有への転換が認められるためには、当該相続人に「所有の意思」が認められることを要する。
重要事実
被相続人Dは、兄である被上告人から土地建物の管理を委託され、一部に居住しつつ他部を賃貸して賃料を受領していた(他主占有)。Dの死亡後、相続人である妻A1および幼少の子らが居住を継続し、賃料の受領も続けた。被上告人はこれを知りつつ黙認していたが、実際にはA1は遺族としての生活援助を受ける趣旨で賃料取得を許されていたに過ぎず、後に被上告人に対し家賃を支払っていた。
事件番号: 平成5(オ)118 / 裁判年月日: 平成6年9月13日 / 結論: 棄却
農地の小作人がいわゆる農地解放後に最初に地代を支払うべき時期にその支払をせず、これ以降、所有者は小作人が地代等を一切支払わずに右農地を自由に耕作し占有することを容認していたなど原判示の事実関係の下においては、小作人は、遅くとも右の時期に、所有者に対して右農地につき所有の意思のあることを表示したものというべきである。
あてはめ
上告人らはDの死亡により占有を相続しただけでなく、新たに事実上の支配を開始しているため、所有の意思があれば「新権原」による自主占有への転換を肯定し得る。しかし、A1が賃料を取得していたのは生活援助という趣旨によるものであり、さらにA1は後に被上告人に対して家賃を支払っている。このような客観的事実に照らせば、上告人らに「所有の意思」があったとは認められない。
結論
上告人らは新権原による自主占有への転換を主張し得る余地はあるが、所有の意思が認められないため、時効取得の成立は否定される。
実務上の射程
相続による占有の承継(民法187条1項)とは別に、独自の占有開始を「新権原」として構成できることを示した重要判例。もっとも、所有の意思は外形的客観的に判断されるため、本件のように賃料支払等の他主占有を示唆する客観的事実がある場合には、自主占有への転換は極めて困難であることを示唆している。
事件番号: 昭和41(オ)1012 / 裁判年月日: 昭和44年2月27日 / 結論: 棄却
不動産の譲受人を債権者とし譲渡人を債務者として右不動産について処分禁止の仮処分登記が経由され、その後第三者に対する所有権移転登記が経由された場合において、仮処分債権者たる譲受人より譲渡人に対する本案訴訟としての所有権移転登記手続請求の訴と右第三者に対する所有権取得登記の抹消登記手続請求の訴とが併合して審理され、仮処分債…
事件番号: 昭和38(オ)1137 / 裁判年月日: 昭和40年3月26日 / 結論: 棄却
甲乙の共有にかかる家屋について、甲が乙の作成名義を偽造して、売買による前所有権の移転登記をした場合において、甲の共有持分に関しては、右偽造による登記の無効を生ずることはない。
事件番号: 昭和42(オ)348 / 裁判年月日: 昭和42年12月15日 / 結論: 棄却
明治二三年当時における法制下においても、登記は公示方法に過ぎず、所有権移転の要件ではないと解すべきである。
事件番号: 平成3(オ)1684 / 裁判年月日: 平成7年7月18日 / 結論: その他
共有に属する要役地のために地役権設定登記手続を求める訴えは、固有必要的共同訴訟に当たらない。