農地の小作人がいわゆる農地解放後に最初に地代を支払うべき時期にその支払をせず、これ以降、所有者は小作人が地代等を一切支払わずに右農地を自由に耕作し占有することを容認していたなど原判示の事実関係の下においては、小作人は、遅くとも右の時期に、所有者に対して右農地につき所有の意思のあることを表示したものというべきである。
農地の小作人が所有者に対し所有の意思のあることを表示したものとして右農地の時効取得が認められた事例
民法162条,民法185条
判旨
他主占有から自主占有への転換(民法185条)において、賃借人が賃料の支払を停止し、所有者がこれを容認して長期間にわたり自由に耕作・占有を継続させた事案では、「所有の意思があることの表示」があったと認められる。
問題の所在(論点)
他主占有者である賃借人が、地代の不払および所有者の黙認という状況下で、いかなる時点をもって「所有の意思があることの表示」をしたと解すべきか(民法185条、162条1項)。
規範
民法185条後段にいう「新権原」または「所有の意思があることの表示」が認められるためには、占有者が自己に占有させた者に対し、占有の性質を変更する旨の外形的客観的な意思表示、またはこれに準ずる占有態様の変更が必要である。
重要事実
上告人の先代Dから本件土地を小作していた賃借人Eは、農地解放後の昭和23年12月末という最初の地代支払時期に支払を行わなかった。その後、DらはEが地代等を一切支払わず、自由に耕作し占有することを容認し続けた。この状態は昭和24年1月1日以降、長期間継続した。
事件番号: 昭和44(オ)1270 / 裁判年月日: 昭和46年11月30日 / 結論: 棄却
相続人が、被相続人の死亡により、相続財産の占有を承継したばかりでなく、新たに相続財産を事実上支配することによつて占有を開始し、その占有に所有の意思があるとみられる場合においては、被相続人の占有が所有の意思のないものであつたときでも、相続人は民法一八五条にいう「新権原」により所有の意思をもつて占有を始めたものというべきで…
あてはめ
Eは昭和23年12月末の地代支払を拒絶しており、これは賃貸借関係に基づく義務の明確な不履行である。さらに、本来であれば地代徴収や返還請求をすべきDらが、Eによる一切の地代不払および自由な耕作・占有を容認していた事実は、単なる不作為を超え、占有の性質が変わったことを双方が認識していたことを推認させる。これらの事情を総合すると、遅くとも昭和24年1月1日には、EからDらに対して客観的に「所有の意思があることの表示」がなされたものと評価するのが相当である。
結論
Eが昭和24年1月1日に「所有の意思があることの表示」をしたものとした原審の判断は正当であり、同日を起算点とする取得時効の成立が認められる。
実務上の射程
本判決は、明示的な口頭での「所有権の主張」がなくとも、賃料不払とそれに対する所有者の長期間の放置(容認)という外形的客観的事実によって占有態様の転換を認めた事例である。答案上は、185条の「表示」を緩和して解釈する際の論拠として有用である。
事件番号: 昭和57(オ)578 / 裁判年月日: 昭和60年11月26日 / 結論: 棄却
仮登記担保権の設定された不動産の第三取得者は、当該仮登記担保権の被担保債権の消滅時効を援用することができる。
事件番号: 昭和51(オ)1060 / 裁判年月日: 昭和52年3月3日 / 結論: 棄却
農地の賃借人が所有者から右農地を買い受けその代金を支払つたときは、農地調整法四条所定の都道府県知事の許可又は市町村農地委員会の承認を得るための手続がとられなかつたとしても、買主は、特段の事情のない限り、売買契約が締結されその代金が支払われた時に、民法一八五条にいう新権原により所有の意思をもつて右農地の占有を始めたものと…
事件番号: 平成1(オ)427 / 裁判年月日: 平成4年5月22日 / 結論: 棄却
農地の賃貸借を解除するには、事前に農地法二〇条一項所定の知事の許可を得ることを要する。
事件番号: 昭和51(オ)117 / 裁判年月日: 昭和51年12月2日 / 結論: 棄却
甲所有の農地を小作し、長期にわたり右農地の管理人のように振舞つていた乙に小作料を支払つていた丙が、甲の代理人と称する乙から右農地を買い受け、右買受につき農地法所定の許可を得て所有権移転登記手続を経由し、その代金を支払つた等判示の事情のもとにおいては、丙は、乙に甲を代理する権限がなかつたとしても、遅くとも右登記の時には民…