甲所有の農地を小作し、長期にわたり右農地の管理人のように振舞つていた乙に小作料を支払つていた丙が、甲の代理人と称する乙から右農地を買い受け、右買受につき農地法所定の許可を得て所有権移転登記手続を経由し、その代金を支払つた等判示の事情のもとにおいては、丙は、乙に甲を代理する権限がなかつたとしても、遅くとも右登記の時には民法一八五条にいう新権原により所有の意思をもつて右農地の占有を始めたものであり、かつ、その占有の始めに所有権を取得したものと信じたことに過失がないということができる。
所有者の無権代理人から農地を買い受けた小作人が新権原による自主占有を開始したものとされ右占有の始め過失がないとされた事例
民法162条2項,民法185条
判旨
他主占有者が外見上権限があるかのように振る舞う無権代理人と売買契約を締結し、これに基づき代金を支払い所有権移転登記を経由した場合には、民法185条の「新権原」により自主占有への転換が認められる。
問題の所在(論点)
他主占有者が無権代理人との間で売買契約を締結し、これに基づき占有を継続した場合、民法185条の「新権原」による所有の意思への変更が認められるか。
規範
民法185条にいう「新権原」とは、占有者がそれまでの占有(他主占有)を継続しながら、新たに所有の意思をもって占有を始めるに足りる客観的事実をいう。無権代理人との間で行われた売買等の取引であっても、占有者が真実の所有権を取得したものと信じるに足りる客観的な事情があり、かつ、代金の支払や登記の経由など所有者として振る舞うための形式を備えた場合には、新権原による自主占有への転換が認められる。
重要事実
本件土地の所有者である上告人は、家督相続により取得した土地を放置し、Eが公然と管理人のように振る舞う余地を与えていた。小作人として他主占有していたDは、上告人の代理人と称するEとの間で売買契約を締結し、農地法上の許可を得た上で代金全額を支払い、昭和32年3月9日に所有権移転登記を経由した。実際にはEに代理権はなかったが、Dは本件土地を適法に譲り受けたと信じて占有を継続した。
事件番号: 昭和51(オ)1060 / 裁判年月日: 昭和52年3月3日 / 結論: 棄却
農地の賃借人が所有者から右農地を買い受けその代金を支払つたときは、農地調整法四条所定の都道府県知事の許可又は市町村農地委員会の承認を得るための手続がとられなかつたとしても、買主は、特段の事情のない限り、売買契約が締結されその代金が支払われた時に、民法一八五条にいう新権原により所有の意思をもつて右農地の占有を始めたものと…
あてはめ
Dは、長年管理人のように振る舞っていたEを信じ、適法な売買手続を経て農地法上の許可及び登記を備えている。上告人が管理を怠っていたという事情を考慮すれば、DがEを通じて適法に譲受できると信じたことには無理がなく、無過失といえる。したがって、Dは遅くとも登記がなされた時点において、売買という客観的事実に基づき、所有の意思をもって占有を始めたものと評価される。Eに実際の代理権が欠けていたとしても、この客観的状況は他主占有を自主占有へと転換させるに足りるものである。
結論
Dには民法185条にいう新権原が認められ、昭和32年3月9日には所有の意思をもって占有を始めたものと解される。これにより、時効取得の要件である所有の意思(自主占有)が認められる。
実務上の射程
本判決は、無権代理人との契約であっても、登記や代金支払等の外形的事実が整っていれば「新権原」になり得ることを示している。答案作成上は、単なる主観的な意図の変化ではなく、外部から認識可能な「権原」が存在することを、契約・登記・代金支払等の事実を摘示して論じる際に活用できる。
事件番号: 平成7(オ)1203 / 裁判年月日: 平成12年1月27日 / 結論: その他
一 渉外的な法律関係において、ある法律問題(本問題)を解決するために不可欠の前提問題が国際私法上本問題とは別個の法律関係を構成している場合、その前提問題の準拠法は、法廷地である我が国の国際私法により定めるべきである。 二 渉外親子関係の成立の判断は、まず嫡出親子関係の成立についてその準拠法を適用し、嫡出親子関係が否定さ…
事件番号: 平成5(オ)118 / 裁判年月日: 平成6年9月13日 / 結論: 棄却
農地の小作人がいわゆる農地解放後に最初に地代を支払うべき時期にその支払をせず、これ以降、所有者は小作人が地代等を一切支払わずに右農地を自由に耕作し占有することを容認していたなど原判示の事実関係の下においては、小作人は、遅くとも右の時期に、所有者に対して右農地につき所有の意思のあることを表示したものというべきである。
事件番号: 昭和31(オ)818 / 裁判年月日: 昭和33年3月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】表見代理の成否を判断するにあたり、相手方が代理権があると信じたことに正当な理由があるかは、過去の交渉経緯や取引条件の合理性を総合して判断されるべきである。本件では、本人が過去に高値での売却を主張して拒絶した経緯や、代理人が提示した価格が本人の希望を大きく下回る点等に照らし、過失が認められ表見代理は…
事件番号: 昭和45(オ)265 / 裁判年月日: 昭和47年9月8日 / 結論: 棄却
共同相続人の一人が、単独に相続したものと信じて疑わず、相続開始とともに相続財産を現実に占有し、その管理、使用を専行してその収益を独占し、公租公課も自己の名でその負担において納付してきており、これについて他の相続人がなんら関心をもたず、異議も述べなかつた等原判示の事情(原判決理由参照)のもとにおいては、前記相続人はその相…