農地の賃借人が所有者から右農地を買い受けその代金を支払つたときは、農地調整法四条所定の都道府県知事の許可又は市町村農地委員会の承認を得るための手続がとられなかつたとしても、買主は、特段の事情のない限り、売買契約が締結されその代金が支払われた時に、民法一八五条にいう新権原により所有の意思をもつて右農地の占有を始めたものというべきである。
農地の賃借人が所有者から右農地を買い受けたが未だ農地調整法四条所定の知事の許可又は農地委員会の承認を得るための手続がとられていない場合と新権原による自主占有の開始
民法162条,民法185条,農地調整法(昭和26年法律第89号による改正前のもの)4条
判旨
農地の賃借人が所有者から農地を買い受けて代金を支払った場合、法令上の権利移転許可手続が未了であっても、特段の事情がない限り、民法185条にいう「新権原」により所有の意思をもって占有を始めたものと解される。
問題の所在(論点)
農地の賃借人が農地を買い受けて代金を支払ったものの、農地法上の許可等を得ていない場合に、民法185条の「新権原」による占有態様の変更(他主占有から自主占有への転換)が認められるか。
規範
他主占有者が自主占有に転換するためには、民法185条に基づき、占有者が自己に占有させた者に対して所有の意思があることを表示するか、または「新権原」により更に所有の意思をもって占有を始めることを要する。ここでいう新権原とは、占有者が真実所有権を取得したことは要せず、客観的にみて占有者が所有の意思をもって占有を開始するに足りる性質の権原であれば足りる。
重要事実
農地の賃借人であった被上告人は、所有者から当該農地を買い受け、その代金を支払った。しかし、当時の農地調整法4条が規定していた所有権移転の効力発生要件である都道府県知事の許可または市町村農地委員会の承認を得るための手続は執られていなかった。その後、被上告人は当該農地の占有を継続し、時効取得を主張した。
事件番号: 昭和51(オ)117 / 裁判年月日: 昭和51年12月2日 / 結論: 棄却
甲所有の農地を小作し、長期にわたり右農地の管理人のように振舞つていた乙に小作料を支払つていた丙が、甲の代理人と称する乙から右農地を買い受け、右買受につき農地法所定の許可を得て所有権移転登記手続を経由し、その代金を支払つた等判示の事情のもとにおいては、丙は、乙に甲を代理する権限がなかつたとしても、遅くとも右登記の時には民…
あてはめ
被上告人は農地の賃借人として他主占有の状態にあったが、所有者との間で売買契約を締結し、かつ代金を完納している。売買契約は本来的に所有権を移転させる性質の契約であり、代金の支払いはその履行としてなされたものである。農地法上の許可手続が未了であり所有権移転の効力が発生していないとしても、買主である被上告人が「所有者として占有する」という主観的意図を客観的に基礎付けるに足りる事実があるといえる。したがって、特段の事情がない限り、代金支払時をもって新権原による自主占有への転換が認められる。
結論
許可手続が未了であっても、売買契約の締結および代金の支払により、新権原に基づく自主占有への転換が認められ、取得時効が進行する。
実務上の射程
本判決は、公法上の制限により物権変動の効力が生じていない場合でも、占有態様の判断においては私法上の合意や履行の事実を重視する姿勢を示したものである。司法試験においては、他主占有から自主占有への転換が問題となる事案(特に相続や無効な売買等)において、民法185条の「新権原」の意義を説明する際の有力な準拠枠組みとなる。
事件番号: 平成5(オ)118 / 裁判年月日: 平成6年9月13日 / 結論: 棄却
農地の小作人がいわゆる農地解放後に最初に地代を支払うべき時期にその支払をせず、これ以降、所有者は小作人が地代等を一切支払わずに右農地を自由に耕作し占有することを容認していたなど原判示の事実関係の下においては、小作人は、遅くとも右の時期に、所有者に対して右農地につき所有の意思のあることを表示したものというべきである。
事件番号: 昭和44(オ)1270 / 裁判年月日: 昭和46年11月30日 / 結論: 棄却
相続人が、被相続人の死亡により、相続財産の占有を承継したばかりでなく、新たに相続財産を事実上支配することによつて占有を開始し、その占有に所有の意思があるとみられる場合においては、被相続人の占有が所有の意思のないものであつたときでも、相続人は民法一八五条にいう「新権原」により所有の意思をもつて占有を始めたものというべきで…
事件番号: 平成1(オ)427 / 裁判年月日: 平成4年5月22日 / 結論: 棄却
農地の賃貸借を解除するには、事前に農地法二〇条一項所定の知事の許可を得ることを要する。
事件番号: 昭和26(オ)527 / 裁判年月日: 昭和28年3月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】占有者が土地の所有権を旧所有者に留保することを了解して占有を開始した場合、その占有は「所有の意思」を欠く他主占有であり、民法162条に基づく取得時効は成立しない。 第1 事案の概要:Dは本件土地をEに使用させる際、その所有権は引き続きDに保留しておくこととし、Eもこれを了解した上で本件土地の占有を…