甲が乙から山林を買い受けて二三年余の間これを占有している事実を知つている丙が、甲の所有権取得登記がされていないのに乗じ、甲に高値で売りつけて利益を得る目的をもつて、右山林を乙から買い受けてその旨の登記を経た等判示の事情がある場合には、丙はいわゆる背信的悪意者として、甲の所有権取得について登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者にあたらない。
登記の欠缺を主張することができないいわゆる背信的悪意者にあたるとされた事例
民法177条
判旨
不動産の二重譲受人が、第一の譲受人の登記欠缺を主張することが信義則に反すると認められる背信的悪意者に該当する場合、民法177条の「第三者」には当たらない。
問題の所在(論点)
第一の譲受人が登記を備えていない場合において、その登記欠缺を主張することが信義則に反する「背信的悪意者」の該当性、およびその場合の民法177条の「第三者」への該当性が問題となる。
規範
実体上の物権変動があった事実を知る者が、その登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情がある場合には、かかる背信的悪意者は、登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しないものであって、民法177条にいう「第三者」に当たらない。
重要事実
被上告人は、昭和4年に訴外Dから本件山林を買い受け占有していたが、登記未了であった。上告人は、昭和28年、本件山林が被上告人の占有管理地内にあり、同人が既に買い受けていることを知りながら、時価約120万円のところを約18万5000円という低額でDから買い受けた。その際、上告人は被上告人が登記を経ていないのを奇貨として、同人に対し高値で売りつけて不当な利益を得る目的を有していた。上告人は買受後、被上告人に買取りを求めたが拒絶されたため、第三者に転売し、さらに本件訴訟に参加して所有権を主張した。
事件番号: 昭和44(オ)56 / 裁判年月日: 昭和44年6月12日 / 結論: 破棄差戻
特定地域の土地が、甲乙間において、甲所有の丙地に含まれるか、乙所有の丁地に含まれるかが争われている場合には、甲がその主張の丙地について所有権取得登記を経由していなくても、乙はこの一事によつて甲の右土地に対する土地所有権取得を否定することはできない。
あてはめ
上告人は、被上告人が本件山林を既に買い受けて占有している事実を認識していただけでなく、登記の未了を奇貨として被上告人に高値で売りつけ利益を得るという不当な目的を有していた。このような態様で譲り受けた者が、被上告人の登記の欠缺を主張することは信義則に反する。買受価格が客観的価格と乖離している点も含め、諸状況を総合すれば、上告人は単なる悪意を超えた背信性を有するといえる。
結論
上告人は背信的悪意者に該当し、民法177条の「第三者」に当たらない。したがって、被上告人は登記なくして所有権取得を上告人に対抗できる。
実務上の射程
二重譲渡における「背信的悪意者排除論」のリーディングケースである。答案上では、単なる悪意では足りず「正当な利益を欠く」ほどの背信性(不当な利益を得る目的等)が必要であることを示す際に引用する。後続の判例により、背信的悪意者からの転得者の問題等にも波及する重要な基礎理論である。
事件番号: 昭和32(オ)313 / 裁判年月日: 昭和33年9月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の譲受人が、当該不動産の登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しない場合には、民法177条の「第三者」に該当しない。二重譲渡の事案において、一方の譲受人が当該土地を取得しておらず、かつ登記の欠缺を主張する正当な利益を欠く場合には、他方の譲受人は登記なくして所有権を対抗できる。 第1 事案…
事件番号: 昭和43(オ)892 / 裁判年月日: 昭和44年4月25日 / 結論: 棄却
甲所有の土地建物が乙に贈与されたが、その登記が未了のため、乙が甲を相手に処分禁止の仮処分をしている場合において、不動産周旋業者で甲および乙と永年交際し右建物を賃借している丙が、土地建物の所有権の帰属につき甲と乙が係争中であることを知つているばかりでなく、甲が乙を欺罔して右仮処分の執行を取り消させ、土地建物が乙名義になる…
事件番号: 昭和35(オ)232 / 裁判年月日: 昭和37年12月25日 / 結論: 棄却
代金支払が契約の数ケ月後であるとの一事によつては、登記欠缺を主張しえない背信的悪意者とはいえない。