合資会社の有限責任社員で「専務取締役」の名称の下に代表者である無限責任社員の職務を代行していた者であっても、定款によって業務執行の権限を与えられておらず、代表者の指揮命令の下に労務を提供していたにとどまり、その対償としての金員の支払を受けていたものについては、右会社の従業員を対象とする退職金規定が適用される。
合資会社の有限責任社員で「専務取締役」の名称の下に無限責任社員の職務を代行していた者について従業員を対象とする退職金規定の適用があるとされた事例
商法156条,労働基準法9条,労働基準法11条,労働基準法89条1項3号の2,労働基準法89条2項
判旨
合資会社の有限責任社員であっても、定款に業務執行権限の定めがなく、実態として代表者の指揮命令下で労務を提供しその対価としての給与を得ている場合には、従業員としての性格を有し、従業員を対象とする退職金規定の適用を受ける。
問題の所在(論点)
合資会社の有限責任社員が、同時に従業員としての地位を有し、従業員を対象とする退職金規定の適用を受けることができるか。社員の地位と使用人の地位の併存可能性が問題となる。
規範
合資会社の有限責任社員が従業員としての地位を併有し、従業員向けの規定(退職金規定等)の適用を受けるか否かは、①定款による業務執行権限の有無、②実態としての業務執行の態様(指揮命令系統の存否)、③支払われる金員の性格(労務の対価性)を総合考慮して判断すべきである。
重要事実
被上告人は、合資会社である上告人の有限責任社員であった。被上告人は「専務取締役」という名称を用いていたが、定款によって業務執行権限を与えられていた事実はなかった。実際には、上告人の代表者である無限責任社員の指揮命令の下で職務を代行し、労務を提供していた。また、その対価として「給料」名目の支払いを受けていた。その後、被上告人が退職した際、従業員を対象とする退職金規定の適用の有無が争点となった。
あてはめ
まず、被上告人は有限責任社員であるが、定款上の業務執行権限がないため、当然に経営主体としての権限を持つわけではない。次に、実態についてみると、専務取締役という肩書にかかわらず、無限責任社員の「指揮命令の下に労務を提供」していたに過ぎない。このことは、使用従属関係の存在を強く推認させる。さらに、支払われていた「給料」は労務提供の「対償」としての性格を有している。したがって、被上告人は実質的に従業員としての地位を有していたといえる。
結論
有限責任社員となった後の被上告人についても、上告人の従業員を対象とする退職金規定が適用される。
実務上の射程
本判決は、会社法上の役員や社員であっても、実態として指揮監督下の労務提供が認められれば労働法規や就業規則の適用を肯定する「実質説」の立場を採る。答案上では、役員の労働者性が問題となる場面(取締役兼部長など)において、形式的な役職名ではなく、業務執行権限の有無や指揮監督関係といった実態から判断する際の有力な準拠枠組みとなる。
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1 就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については,当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく,当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様,当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして…
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