特許出願の拒絶査定を是認する審決に対する取消訴訟において、その係属中に特許出願が取り下げられた場合には訴えの利益が失われるのに、特許出願人が、請求棄却の判決の言渡し後に自らこのような状態を現串させた上、訴えの却下を求めて上告することは、上訴権の濫用に当たる。
上告が上訴権の濫用に当たるとされた事例
民訴法393条,民訴法399条1項1号,民訴法399条ノ3,民法1条3項
判旨
特許出願の拒絶審決取消訴訟の係属中に、出願人が自ら出願を取り下げて訴えの利益を喪失させた上で、原判決の破棄・訴え却下を求めて上告することは、上訴権の濫用として不適法である。
問題の所在(論点)
審決取消訴訟の係属中に特許出願が取り下げられた場合における訴えの利益の成否、および自ら訴えの利益を失わせた上で訴え却下を求めて上告する行為の適法性が問題となる。
規範
上訴は、原判決の当否を争いその是正を求めるための制度である。自ら訴えの利益を消滅させる状態を現出させた上で、原判決の破棄と訴え却下のみを目的として上告を提起することは、上訴制度の本来予定しないところであり、上訴権の濫用に当たる。このような上告は不適法であり、その欠缺を補正することはできない。
重要事実
上告人は特許出願の拒絶査定を不服として審判を請求したが、請求不成立の審決を受けたため、審決取消訴訟を提起した。原審が上告人の請求を棄却する判決を言い渡した後、上告人は当該特許出願を取り下げた。その上で、自ら訴えの利益を失ったことを理由に、原判決を破棄して訴えを却下することを求めて最高裁判所に上告した。
あてはめ
特許出願が取り下げられると、審判の対象となった出願自体が初めから存在しなかったことになるため、審決取消を求める法律上の利益は失われる。本件上告人は、原判決言渡し後に自ら出願を取り下げることで、意図的に訴えの利益が欠けている状態を作り出した。これを利用して原判決の破棄(既判力の排除等)を狙うことは、上訴制度の趣旨を逸脱しており、権利の濫用といえる。
結論
本件上告は上訴権の濫用として不適法であり、却下を免れない。
実務上の射程
訴えの利益が後発的に消滅した場合、通常は二審であれば訴え却下、上告審であれば原判決破棄・訴え却下となるが、本判決は「不当な意図による訴えの利益の消滅」を上訴権の濫用として上告却下で対応した点に特徴がある。不利益な判決の既判力を免れるために自己の行為で訴えの利益を消滅させる戦術への制裁的意義を持つ。
事件番号: 昭和58(行ツ)101 / 裁判年月日: 昭和60年3月28日 / 結論: 破棄自判
特許出願の明細書の補正却下の決定に対する審判請求を排斥した審決の取消訴訟の係属中に特許出願の放棄がされた場合には、取消訴訟の訴えの利益は失われる。