一棟の建物のうち構造上及び利用上の独立性のある建物部分に賃借権が設定されたにもかかわらず、建物全部について賃借権設定登記がされている場合、右登記の抹消登記手続請求は、右建物部分を除く残余の部分に関する限度において認容すべきである。
一棟の建物のうち構造上及び利用上の独立性のある建物部分に賃借権が設定されたにもかかわらず建物全部について賃借権設定登記がされている場合に右登記の抹消登記手続請求を認容すべき範囲
民法177条,建物の区分所有等に関する法律1条,不動産登記法94条ノ2,不動産登記法96条ノ2
判旨
建物の一部のみの賃貸借に対し建物全体に賃借権設定登記がなされた場合、実体関係と一致しない部分については、区分登記を経た上でその部分のみの抹消を請求できる。
問題の所在(論点)
建物の特定の一部についてのみ賃借権が設定されたにもかかわらず、建物全体に賃借権設定登記がなされている場合、所有者はどの範囲で登記の抹消を請求できるか。
規範
建物の一部(構造上・利用上の独立性を有する部分)のみを目的とする賃貸借契約に基づき、建物全体を目的とする賃借権設定登記がなされた場合、当該登記は賃貸借の目的となった部分に関する限り有効である。したがって、建物所有者は、登記全部の抹消を請求することはできないが、建物を区分登記した上で、賃貸借の目的となっていない残余の部分についてのみ抹消登記手続を請求することができる。
重要事実
訴外D社は、5階建ての本件建物のうち2階部分を除く各階について被告(被上告人)と賃貸借契約を締結したが、合意により建物全部について被告を賃借権者とする設定登記を行った。その後、本件建物を譲り受けた原告(上告人)が、本件登記は実体に反する無効なものであるとして、全部の抹消登記を求めて提訴した。なお、本件建物の2階部分は構造上及び利用上の独立性を有していた。
事件番号: 昭和51(オ)1028 / 裁判年月日: 昭和52年2月17日 / 結論: 棄却
抵当不動産につき、抵当権者自身を権利者とする、賃借権又は抵当債務の不履行を停止条件とする条件付賃借権が設定され、その登記又は仮登記が抵当権設定登記と順位を前後して経由された場合において、競売申立までに対抗要件を具備した短期賃借権者が現われないまま、競落によつて第三者が当該不動産の所有権を取得したときには、特段の事情のな…
あてはめ
本件登記は、賃貸借の対象となった2階以外の部分については実体関係に符合し有効であるが、対象外である2階部分については実体上の権利に基づかない。原審は、区分登記がなされていないことを理由に請求を全部棄却したが、2階部分に独立性が認められる以上、原告は区分登記を経た上で、当該部分に限って抹消を請求することが可能である。したがって、2階部分に関する抹消請求を認容する余地がある。
結論
本件建物のうち、賃貸借の目的となっていない2階部分について抹消登記手続を求める限度において、原告の請求は認められる。
実務上の射程
物権的登記請求権の行使において、登記の一部に実体がある場合、一律に無効として全部抹消を認めるのではなく、区分登記という手続を前提として実体に反する部分のみの抹消を認める判断枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和35(オ)234 / 裁判年月日: 昭和37年10月5日 / 結論: その他
甲乙丙三棟の建物を所有する債務者が、未登記の甲建物の所有権保存登記をなすべく司法書士に委任したところ、甲建物を主たる建物、乙丙建物を付属建物と表示する登記がなされ、次いで、債権者の手により甲乙丙建物を目的物とする抵当権設定登記が経由されたのに対し、抵当権設定契約の不存在を理由として右抵当権設定登記の抹消登記手続を請求す…
事件番号: 昭和56(オ)817 / 裁判年月日: 昭和59年4月24日 / 結論: その他
共有者の一部の者の名義に所有権移転登記又は所有権移転請求権仮登記がされている場合に、他の共有者が妨害排除として右一部の者に対して請求することができる登記手続は、自己の持分についての一部抹消(更正)登記手続に限られる。
事件番号: 昭和45(オ)207 / 裁判年月日: 昭和45年6月16日 / 結論: 棄却
存続期間の定めのない建物所有を目的とする土地賃貸借の存続期間は借地法二条一項、三条の定めるところにより三〇年であるから、右賃貸借は民法三九五条により抵当権者に対抗しうべき賃貸借に当らない。