営業の重要な一部を譲渡する旨の株主総会決議がされたが、右営業の譲渡の要領を株主総会の招集通知に記載しなかった違法がある場合には、右違法が重大でないとはいえず、商法二五一条により右決議の取消請求を棄却することはできない。
営業の重要な一部を譲渡する旨の決議がされた株主総会の招集通知に右営業の譲渡の要領を記載しなかった違法がある場合に商法二五一条により右決議の取消請求を棄却することの可否
商法251条,商法(平成2年法律第64号による改正前のもの)245条
判旨
事業譲渡の株主総会招集通知において譲渡要領の記載を欠くことは、反対株主の買取請求権行使の判断を妨げるため、重大な手続上の瑕疵にあたる。したがって、かかる違反がある場合、決議取消しの訴えにおける裁量棄却(現行会社法831条2項)の対象とはならない。
問題の所在(論点)
事業譲渡の招集通知において「譲渡の要領」(会社法298条1項5号、施行規則63条等)を記載しなかった瑕疵が、株主総会決議取消しの訴えにおける「裁量棄却」の対象となる軽微なものといえるか(現行会社法831条1項1号、同2項)。
規範
事業譲渡(旧商法245条1項、現行会社法467条1項)に関する招集通知にその要領を記載すべきとする規定の趣旨は、株主に対しあらかじめ賛否の判断に足りる情報を与え、反対株主の株式買取請求権(現行会社法469条)の行使の機会を保障することにある。そのため、譲渡要領の不記載は重大な違法であり、決議の結果に影響を及ぼさないとはいえず、裁量棄却をすることはできない。
重要事実
タクシー・バス事業を営む被告会社の株主総会において、貸切バス部門の新会社への譲渡が決議された。招集通知には事業譲渡の件は議案として記載されていたが、譲渡の対価等の詳細(譲渡要領)は記載されていなかった。原審は、招集通知に営業報告書が同封され資産負債が示されていたことや、出席株主から異議がなかったことを理由に、手続違法は重大でないとして裁量棄却(旧商法251条)を認めたため、株主である原告らが上告した。
事件番号: 昭和29(オ)643 / 裁判年月日: 昭和31年11月15日 / 結論: 棄却
一 昭和二五年法律第一六七号による改正前の商法第二五一条が削除された後は、裁判所に右削除前と同様な裁量権があると解すべきではない。 二 予め株主総会決議事項の通知をしなかつたというような軽微でない手続上の瑕疵があるときは、裁判所は右決議取消の請求を認容すべきである。
あてはめ
事業譲渡は株主の利害に直結する重要な行為であり、法律が特に招集通知への要領記載を求めているのは、株主が買取請求権を行使するか否かを判断するための情報提供を不可欠としているからである。本件では、資産負債の記載はあるものの、対価等の詳細が不明なまま決議がなされており、株主が適切な判断を行う前提を欠いている。このような手続の違法は、株主の権利行使の機会を奪うものであって「重大でない」とはいえず、また決議の結果に影響しないとも断定できない。
結論
招集通知に譲渡要領を記載しなかった手続上の瑕疵は重大であり、裁量棄却により請求を棄却することはできない。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
法定の招集通知記載事項が欠落している場合、それが株主の権利行使(特に買取請求権や議決権行使)に直結する性質のものであれば、裁量棄却の余地は極めて限定されることを示している。答案上は、手続違法の重大性を論じる際、当該規定の趣旨(情報提供を通じた権利行使の保障)に遡って論証するモデルとして活用できる。
事件番号: 昭和55(オ)193 / 裁判年月日: 昭和55年6月16日 / 結論: 棄却
二七〇〇株の株主に対する株主総会の招集通知に法定の招集期間より六日足りない瑕疵がある場合であつても、右株主に対しては代表取締役があらかじめ総会の議題を話しており、右株主も総会が右株主の住居と同一建物内で開催されることを熟知しながら意識的に出席を拒否したものであり、かつ、他の七三〇〇株の株主全員が出席して全会一致で解散の…
事件番号: 昭和28(オ)1430 / 裁判年月日: 昭和30年10月20日 / 結論: 棄却
一 商法旧第二〇六条(昭和二五年法律第一六七号による改正前のもの)の施行当時、記名株式の譲渡があつたにかかわらず株主名簿の名義書換が会社の都合でおくれていても、会社が右譲渡を認め譲受人を株主として取り扱うことは妨げないと解するのが相当である。 二 株主総会決議取消の訴において、当該決議に取消の原因となるべき違法の点があ…
事件番号: 昭和43(オ)913 / 裁判年月日: 昭和44年12月18日 / 結論: 棄却
株主総会における数個の決議の取消を求める訴において、各決議の取消原因として、株主総会につき発せられた招集通知期間に判示のような著しい不足があるのみならず、一個の決議を除く他の決議については、招集通知に会議の目的たる事項の記載がなかつたという瑕疵があるときは、これらの瑕疵は軽微とはいえず、すべての決議について、その取消を…