一 商法旧第二〇六条(昭和二五年法律第一六七号による改正前のもの)の施行当時、記名株式の譲渡があつたにかかわらず株主名簿の名義書換が会社の都合でおくれていても、会社が右譲渡を認め譲受人を株主として取り扱うことは妨げないと解するのが相当である。 二 株主総会決議取消の訴において、当該決議に取消の原因となるべき違法の点があつても、その違法が決議の結果に異動を及ぼすと推測されるような事情が認められない場合には、裁判所は原告の請求を棄却するべきもの解するのが相当である。
一 株式の譲渡につき名義書換が未了の場合会社はその譲渡を認めることができるか 二 株主総会決議取消の訴と裁判所の裁量権
商法旧206条,商法247条,商法旧251条
判旨
会社側が名義書換を失念等している場合でも、株式譲受人を株主として取り扱うことは妨げられず、また、総会招集手続等に違法があっても決議の結果に影響を及ぼさないときは裁判所は取消請求を棄却できる。
問題の所在(論点)
1. 記名株式の譲受人が株主名簿未書き換えの場合に、会社側から当該譲受人を株主として扱うことの可否。 2. 総会招集手続等に違法がある場合に、裁判所が裁量により取消請求を棄却できるか(裁量棄却の可否)。
規範
1. 記名株式の譲渡は株主名簿の記載がなければ会社に対抗できないが(会社法130条1項参照)、会社側から移転の事実を認め、譲受人を株主として取り扱うことは妨げられない。 2. 株主総会の招集手続又は決議方法に法令・定款違反がある場合であっても、議事の経過等に照らし、その違法が決議の結果に影響を及ぼすおそれがないと認められるときは、裁判所はその裁量により取消請求を棄却できる(裁量棄却)。
重要事実
訴外Dは訴外Eから被告会社の株式10株を譲り受け、会社に名義書換を請求したが、株主名簿の書換えが行われないままとなっていた。会社はDを株主として扱い、株主総会の招集通知を発し、Dはこれに基づき出頭して議決権を行使した。原告は、株主名簿に記載のないDへの招集通知や、特別利害関係人の議決権除外措置の欠如等の違法を理由に、本件決議の取消しを求めて提訴した。
事件番号: 昭和41(オ)664 / 裁判年月日: 昭和42年9月28日 / 結論: 棄却
一 株主は、他の株主に対する招集手続のかしを理由として株主総会決議取消の訴を提起することができる。 二 決議取消の訴において取消事由がある場合でも、諸般の事情を斟酌して、その取消を不適当と認めるときは、裁判所は請求を棄却することを要求する。
あてはめ
1. 会社法上の対抗要件規定は会社を保護するためのものである。本件では、Dが実際に株式を譲り受けて名義書換を請求していた事実があり、会社側がこれを認めて株主として取り扱うこと自体に違法はない。 2. 仮に特別利害関係人の排除漏れや非株主への招集といった違法が存在したとしても、議事の経過等から見て「その違法がなかったならば決議の結果が異なっていた」と推測される事情は認められない。したがって、決議の効力を否定するまでの必要性はないといえる。
結論
1. 会社側が譲受人を株主として扱うことは適法である。 2. 手続に瑕疵があっても結果に影響がない本件においては、裁量棄却により取消請求は棄却される。
実務上の射程
会社側からの名義書換前株主の承認(名義書換失念時の救済)および、会社法831条2項の裁量棄却の判断枠組みを示す重要判例である。特に裁量棄却については「違法が決議の結果に異動を及ぼすと推測されるか」という基準を提示しており、実務上の取消訴訟において極めて高い射程を持つ。
事件番号: 昭和29(オ)643 / 裁判年月日: 昭和31年11月15日 / 結論: 棄却
一 昭和二五年法律第一六七号による改正前の商法第二五一条が削除された後は、裁判所に右削除前と同様な裁量権があると解すべきではない。 二 予め株主総会決議事項の通知をしなかつたというような軽微でない手続上の瑕疵があるときは、裁判所は右決議取消の請求を認容すべきである。
事件番号: 昭和34(オ)250 / 裁判年月日: 昭和36年11月24日 / 結論: 棄却
一 訴訟の目的が当事者の一方及び第三者について合一にのみ確定すべき場合でも、その第三者は、当該訴訟の当事者となりうる適格を有しないかぎり、民訴第七五条の規定により、共同訴訟人として当該訴訟に参加することができない。 二 株主総会決議取消訴訟において被告となりうる者は、当該株式会社に限られる。
事件番号: 昭和35(オ)1120 / 裁判年月日: 昭和37年8月30日 / 結論: 棄却
株式会社の一部株主の代理人による決議権の行使が定款に違反したこと、他の一部株主に対する株主総会招集通知が欠缺したことの違法があつても、その違法が株主総会決議の結果に異動をおよぼすと認められないときは、右決議取消の請求を棄却することができる。