直進車が、反対方向から進行してきた車両が交差点内で直進車の通過を待って右折するために停止していることを確認した上、青色信号に従って交差点内に進入したところ、右停止車両の後続車がその左横を通過して、直進車の有無、状況の確認を怠って右折進行を続けたため交差点内で直進車と衝突したなど判示の事実関係の下においては、直進車の運転者には、特別の事情のない限り、そのような後続車が自車の進路前方に進入してくることまでも予想して、その有無、動静に注意して交差点を進行すべき注意義務はない。
交差点を直進する自動車運転者に交差点内で右折のため停止している車両の後続車が停止車両の側方を通過して右折することまでの予見義務がないとされた事例
民法709条,道路交通法36条4項,道路交通法37条
判旨
青色信号で交差点を直進する運転者は、対向右折車が停止待機している場合、特段の事情がない限り、その後続車が側方から飛び出して右折進行するという通常予想し難い違法な運転行為までを想定して注意を払う義務はない。
問題の所在(論点)
青色信号に従い交差点を直進する運転者に、停止待機中の対向右折車の陰から飛び出してくる後続車両の動静まで注視すべき注意義務(過失)が認められるか。
規範
車両の運転者は、他の車両の運転者も道路交通法37条(直進車優先)等の関係法令を遵守して行動するものと想定して自車を運転するのが通常である。したがって、直進車は、右折車が停止待機している場合に、その後続車が当該停止車両の側方から前方に出て右折進行を続けるという、通常予想することができない「違法かつ危険な運転行為」をすることまでを予見して注意すべき義務を負わない(信頼の原則)。ただし、そのような予見を基礎付ける「特別の事情」がある場合はこの限りではない。
重要事実
普通貨物車を運転する上告人は、青色信号に従い交差点を直進しようとした際、対向車線で郵便車が右折のため停止待機しているのを確認し、そのまま進行した。一方、原付自転車を運転するDは、郵便車の左横(後続)を通過し、直進車の有無を確認せずに右折を強行。雨で濡れた路面を横滑りしながら上告人車の側面に衝突し、死亡した。原審は、郵便車の物陰から飛び出す車両を予測すべき注意義務違反があるとしたため、上告人が上告した。
あてはめ
本件において、上告人は青色信号に従って直進しており、対向する郵便車も上告人車の通過を待って適法に停止していた。このような状況下で、郵便車の後続車であるDが、あえてその側方を通過して自車の進路前方に進入してくるという行動は、道路交通法37条に違反する「違法かつ危険な運転行為」であり、通常予測し得ないものである。本件の記録上、後続車が飛び出してくることを予見すべき「特別の事情」をうかがわせる事実は存在しない。したがって、上告人にDの動静を予見し、衝突を回避するために注意を払うべき義務があったとは認められない。
結論
上告人に本件事故についての過失は認められず、損害賠償責任を負わない。
実務上の射程
交通事故における「信頼の原則」を適用した重要判例である。答案上は、まず「過失」の定義として予見可能性・結果回避義務を論じた上で、本判例の規範を引き、相手方の行動が「通常予想し難い違法なもの」であることを具体的事実(信号、停止車両の有無等)から指摘し、予見可能性を否定する流れで活用する。
事件番号: 昭和42(オ)1438 / 裁判年月日: 昭和43年9月24日 / 結論: 棄却
交差点において追抜態勢にある自動車運転手は、特別の事情のないかぎり、並進車が交通法規に違反して進路を変えて、突然自車の進路に近寄つてくることまでも予想して、それによつて生ずる事故の発生を未然に防止するため徐行その他避譲措置をとるべき業務上の注意義務はないと解するのが相当である。