退去強制令書の収容部分の執行により被収容者が受ける損害は,当然には行政事件訴訟法25条2項に規定する回復の困難な損害に当たらない。
退去強制令書の収容部分の執行により被収容者が受ける損害と行政事件訴訟法25条2項に規定する回復の困難な損害
行政事件訴訟法25条2項,出入国管理及び難民認定法49条5項,出入国管理及び難民認定法52条5項
判旨
退去強制令書の収容部分の執行により被収容者が受ける損害は、当然には行政事件訴訟法25条2項の「回復の困難な損害」に当たるとはいえない。社会通念上、金銭賠償による回復をもって満足すべきものにとどまる場合は、執行停止の要件を満たさない。
問題の所在(論点)
退去強制令書の「収容部分」の執行により被収容者が受ける身体拘束等の損害が、行政事件訴訟法25条2項の「回復の困難な損害」に該当し、執行停止の緊急の必要があるといえるか。
規範
行政事件訴訟法25条2項にいう「回復の困難な損害」を避けるための「緊急の必要」があるというためには、損害の性質・態様および程度に照らし、金銭賠償による事後的な補填が社会通念上可能か否かを基準に判断すべきである。身体の拘束(収容部分の執行)を伴う処分であっても、それにより生ずる損害が直ちに同要件を満たすわけではなく、個別の事情を考慮して、社会通念上金銭賠償での回復が困難といえる特段の事情が必要となる。
重要事実
韓国籍の相手方らは、法務大臣から退去強制令書の発付処分を受けた。相手方らは、日本人男性との婚姻・養子縁組、大学進学のための高校卒業の必要性、および卒業後の自発的帰国意思を主張。本案(退去強制令書発付処分取消訴訟)の控訴審において、高校卒業までの間、収容部分および送還部分の執行停止を申し立てた。原審は、これらの個別事情を考慮して収容部分も含めた執行停止を認めたため、国側が抗告した。
事件番号: 平成14(行フ)1 / 裁判年月日: 平成14年2月28日 / 結論: 棄却
収容令書の執行により収容された者に対し,退去強制令書が発付され,その執行がされた場合,収容令書の執行停止を求める申立ての利益は失われる。
あてはめ
相手方らが主張する婚姻や学業の継続という事情、およびそれらが収容によって妨げられることによる損害は、いずれも社会通念上、金銭賠償による回復をもって満足することもやむを得ない性質のものというべきである。したがって、身体の拘束を伴うものであるとしても、直ちに「回復の困難な損害」に当たるとはいえず、収容部分の執行を停止すべき緊急の必要があるとは認められない。
結論
送還部分の執行停止は認められるが、収容部分については「回復の困難な損害」を避ける緊急の必要性があるとはいえないため、収容部分の執行停止申立ては却下される。
実務上の射程
人身の自由に関わる処分であっても、金銭賠償による代替可能性を厳格に判断する判例である。答案上は、退去強制令書の「送還部分」については回復困難な損害(生命・身体への危険や家族との断絶等)を認めやすい一方、「収容部分」についてはより高いハードルを課している点に注意して書き分ける必要がある。
事件番号: 昭和51(行ト)5 / 裁判年月日: 昭和52年3月10日 / 結論: 却下
外国人が退去強制令書によりその本国等に強制送還されても、日本において裁判を受ける権利を否定されることにはならない。
事件番号: 平成14(行フ)11 / 裁判年月日: 平成15年3月11日 / 結論: 破棄自判
弁護士に対する戒告処分が日本弁護士連合会会則97条の3第1項に基づく公告を介して第三者の知るところとなり弁護士としての社会的信用が低下するなどの事態は,行政事件訴訟法25条2項にいう「処分により生ずる回復の困難な損害」に当たらない。
事件番号: 平成29(行フ)3 / 裁判年月日: 平成29年12月19日 / 結論: 破棄自判
村議会の議員である者につき地方自治法92条の2の規定に該当する旨の決定がされ,その補欠選挙が行われた場合において,同選挙は上記決定の効力が停止された後に行われたものであったが,同選挙及び当選の効力に関し公職選挙法所定の期間内に異議の申出がされなかったという事実関係の下では,上記の者は,上記決定の取消判決を得ても,上記議…
事件番号: 平成22(行ト)63 / 裁判年月日: 平成22年11月25日 / 結論: 棄却
検察審査会法41条の6第1項所定の検察審査会による起訴をすべき旨の議決の適否については,行政事件訴訟を提起して争うことはできず,これを本案とする行政事件訴訟法25条2項の執行停止の申立てをすることもできない。