丁の遺言書中の特定の遺産を一部の親族に遺贈等をする旨の条項に続く「遺言者は法的に定められたる相続人を以って相続を与へる。」との条項について,丁は,その妻戊との間に子がなかったため,丁の兄夫婦の子甲を実子として養育する意図で丁戊夫婦の嫡出子として出生の届出をしたこと,丁と甲とは,遺言書が作成されたころを含めて,丁が死亡するまで,実の親子と同様の生活をしていたとみられること,遺言書が作成された当時,甲は,戸籍上,丁の唯一の相続人であったことなど判示の事情を考慮することなく,遺言書の記載のみに依拠して,上記の遺贈等の対象とされた特定の遺産を除く丁の遺産を甲に対して遺贈する趣旨ではなく,これを単に法定相続人に相続させる趣旨であるとした原審の判断には,違法がある。
遺言書の記載のみに依拠して遺言書の条項の文言を形式的に解釈した原審の判断に違法があるとされた事例
民法第4編第3章 親子,民法968条
判旨
遺言の解釈においては、文言を形式的に判断するだけでなく、遺言書の全記載との関連、作成当時の事情、遺言者の置かれた状況等を考慮して真意を探究すべきである。戸籍上の嫡出子(実態は他人の子)が唯一の相続人であると認識していた事情がある場合、その者を指して「法的に定められたる相續人」とした条項は遺贈の趣旨と解し得る。
問題の所在(論点)
遺言書に「法的に定められたる相續人に相續を与へる」とある場合、その文言を形式的に解釈して真の法定相続人を指すとすべきか、それとも当時の事情を考慮して、遺言者が相続人であると信じていた特定の者を指すと解釈すべきか。
規範
遺言の解釈は、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきである。具体的には、①遺言書の全記載との関連、②遺言書作成当時の事情、③遺言者の置かれていた状況などを総合的に考慮し、当該条項の趣旨を確定しなければならない。
重要事実
事件番号: 平成17(受)833 / 裁判年月日: 平成18年7月7日 / 結論: その他
戸籍上AB夫婦の嫡出子として記載されているYが同夫婦の実子ではない場合において,Yと同夫婦との間に約55年間にわたり実親子と同様の生活の実体があったこと,同夫婦の長女Xにおいて,Yが同夫婦の実子であることを否定し,実親子関係不存在確認を求める本件訴訟を提起したのは,同夫婦の遺産を承継した二女Cが死亡しその相続が問題とな…
丁は、実兄の子である上告人を自己の嫡出子として虚偽の出生届を出し、実の親子同様に約39年間生活していた。丁は自筆証書遺言を作成し、その4項に「遺言者は法的に定められたる相續人を以って相續を与へる」と記載した。当時、上告人は戸籍上丁の唯一の相続人であったが、丁の死後、実の親子関係がないことから、丁の兄弟(被上告人ら)が真の法定相続人であるとして、遺産の持分確認を求めて提訴した。
あてはめ
丁は戊との間に子がなかったため、上告人を実子として養育する意図で虚偽の届出をし、長年実の親子同様の生活を継続しており、作成当時もその状態に変化はなかった。また、法律専門家ではない丁にとって、戸籍上唯一の相続人である上告人が「法的に定められたる相續人」であると認識していたとみるのが自然である。そうすると、当該条項は上告人を具体的に指すものであり、「相續を与へる」との文言も、客観的には遺贈の趣旨と解する余地が十分にある。文言のみに依拠して、上告人を排斥し真の法定相続人を指すと解した原判決は、遺言者の真意探究を欠いている。
結論
遺言の解釈にあたっては、文言の形式的解釈にとどまらず、作成当時の生活実態や遺言者の認識等の諸事情を考慮すべきである。本件の「法的に定められたる相續人」は、上告人を指す遺贈の趣旨と解する余地があるため、原審に差し戻す。
実務上の射程
遺言解釈の一般的枠組みを示す。特に「相続させる」旨の遺言において、指定された者が相続人としての資格を欠く場合や、虚偽の戸籍に基づき相続人と信じられていた者が関与する場合に、遺贈への転換や受遺者の特定を行う際の意思解釈の手法として重要である。
事件番号: 昭和43(オ)520 / 裁判年月日: 昭和49年12月23日 / 結論: 破棄自判
朝鮮民事令(明治四五年制令第七号)の適用をうける朝鮮人が、他人の子を養子とする意図のもとに嫡出子として届け出ても、それによつて養子縁組が成立するとはいえない。
事件番号: 昭和49(オ)861 / 裁判年月日: 昭和50年4月8日 / 結論: 棄却
養子とする意図で他人の子を嫡出子として出生届をしても、右出生届をもつて養子縁組届とみなし、有効に養子縁組が成立したものとすることはできない。
事件番号: 平成17(受)1708 / 裁判年月日: 平成18年7月7日 / 結論: 破棄差戻
戸籍上Xと亡夫との夫婦の嫡出子として記載されているYがXの実子ではない場合において,YとXとの間には,XがYに対して実親子関係不存在確認調停を申し立てるまでの約51年間にわたり実親子と同様の生活の実体があり,その間,XはYがXの実子であることを否定したことがないこと,判決をもって実親子関係の不存在が確定されるとYが軽視…