有責配偶者である夫からの離婚請求において,夫婦の別居期間が,事実審の口頭弁論終結時に至るまで約2年4か月であり,双方の年齢や約6年7か月という同居期間との対比において相当の長期間に及んでいるとはいえないこと,夫婦間には7歳の未成熟の子が存在すること,妻が,子宮内膜症にり患しているため就職して収入を得ることが困難であり,離婚により精神的・経済的に苛酷な状況に置かれることが想定されることなど判示の事情の下では,上記離婚請求は,信義誠実の原則に反するものといわざるを得ず,これを認容することができない。
有責配偶者からの離婚請求を認容することができる場合に当たらないとされた事例
民法1条2項,民法770条
判旨
有責配偶者からの離婚請求は、別居期間、未成熟子の存在、相手方配偶者の精神的・経済的状況を総合考慮し、信義則に反しない場合に限り認められる。本件では、別居が約2年4か月と短く、7歳の未成熟子が存在し、病気による経済的不安もあるため、離婚請求は認められない。
問題の所在(論点)
婚姻関係の破綻(民法770条1項5号)について主たる責任がある有責配偶者からの離婚請求が、信義則上許容されるための要件。
規範
民法770条1項5号所定の事由につき専ら又は主として責任のある有責配偶者からの離婚請求が信義則(同法1条2項)上許されるかは、以下の3要件を総合考慮して判断する。①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んでいるか、②未成熟の子が存在しないか、③相手方配偶者が離婚により精神的・経済的に極めて苛酷な状況に置かれる等、離婚認容が著しく社会正義に反する事情がないか。
重要事実
夫(被上告人)と妻(上告人)は平成6年に婚姻し、長男をもうけた。妻の極端な清潔好きに夫が不快感を抱く中、夫は別の女性と不貞関係に及び、平成12年に離婚を求めて別居を開始した。別居期間は原審口頭弁論終結時で約2年4か月(同居期間は約6年7か月)。長男は当時7歳であった。妻は子宮内膜症を患い就職が困難で、将来の経済的不安から離婚を拒絶していた。
あてはめ
まず、夫は不貞により婚姻関係を破綻させた有責配偶者である。次に、①別居期間(約2年4か月)は、同居期間(約6年7か月)や双方の年齢(30代)に比して「相当の長期間」とはいえない。また、②7歳の長男は、監護・教育・福祉の面で配慮を要する「未成熟の子」に当たる。さらに、③妻は病気で収入を得ることが困難であり、離婚により経済的に苛酷な状況に置かれる蓋然性が高く、離婚認容は社会正義に反するといえる。以上より、本件請求は信義則に反する。
結論
有責配偶者である夫からの離婚請求は、信義則に反し許されないため、棄却すべきである。
実務上の射程
昭和62年大法廷判決の枠組みを維持し、個別の事案(特に別居期間の短さと未成熟子の存在)に即して信義則違反を厳格に認定した事例である。答案では、破綻事由があることを前提としつつ、有責性の抗弁に対する再反論(信義則)の場面で、上記3要件に事実を具体的にあてはめて論じる。
事件番号: 昭和62(オ)1001 / 裁判年月日: 昭和63年2月12日 / 結論: 破棄差戻
有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦が二二年間別居し、その間に未成熟子がいないときには、相手方配偶者が離婚によつて精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、認容すべきである。