元本債権及びこれに対する遅延損害金債権の支払請求に対する抗弁として,被告が,いずれの債権についても同時に原告に対する滞納処分としての差押えがされその全額を支払ったと主張する一方,遅延損害金債権のみが差押債権として記載された債権差押通知書及び差押債権受入金として上記各債権の全額を領収した旨の記載がある領収証書を書証として提出していることから,同通知書につき上記各債権が同時に差し押さえられた旨の記載があるものと誤解していたことが明らかであるという事情の下においては,裁判所が,被告は上記差押えに基づき各債権の全額を支払ったと認定しながら,元本債権に対する差押えについての主張の補正及び立証をするかどうかについて釈明権を行使することなく,同差押えの事実を認めることができないとし,元本債権に対する弁済の主張を排斥したことには,釈明権の行使を怠った違法がある。
債権の差押えに基づき第三者債務者として弁済した旨の抗弁に係る主張の補正及び立証について釈明権の行使を怠った違法があるとされた事例
民訴法149条,民訴法219条
判旨
当事者が提出した書証の記載内容を誤解し、それに基づき不利益な法的評価がなされる蓋然性が高い場合、裁判所は釈明権を行使して主張の補正や立証を促す義務を負う。
問題の所在(論点)
当事者が書証の内容を誤解し、本来主張すべき事実(元本債権の差押え)について適切な主張・立証を行っていない場合、裁判所は釈明権を行使すべき義務を負うか。
規範
裁判所は、当事者が提出した書証の記載から、その当事者が主要な事実関係(本件では差押えの範囲)を誤解していることが明らかである場合には、適正な裁判を実現するため、当然に主張の補正や立証を促すべく釈明権(民訴法149条)を行使すべき義務がある。
重要事実
被上告人(債権者)が上告人(債務者)に対し代金支払を求めた事案。上告人は、税務署職員により債権が差し押さえられたため当該職員に全額支払ったと主張し、領収証書等を提出した。しかし、債権差押通知書には遅延損害金のみが差押対象であるかのような記載があり、原審は釈明を行うことなく、元本債権に対する弁済の効果を否定した。
あてはめ
上告人が提出した領収証書には元本と損害金の合計額が「差押債権受入金」として記載されており、上告人が債権全般が差し押さえられたと誤解していたことは明らかである。このような状況下で、原審が釈明権を行使して差押えの事実に関する主張の補正や立証を促すことなく、直ちに弁済の主張を排斥したことは、釈明権の行使を怠った違法があるといえる。
結論
裁判所が釈明義務を怠り、上告人の主張を排斥した判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
当事者の主張と提出証拠の間に客観的な齟齬がある場合や、当事者が証拠の意味内容を誤認していることが明白な場合に、裁判所がそれを放置して不意打ち的な敗訴判決を下すことを防ぐ「釈明義務」の具体例として活用できる。
事件番号: 昭和45(オ)52 / 裁判年月日: 昭和45年6月11日 / 結論: 棄却
請求原因として主張された事実関係とこれに基づく法律構成とがそれ自体正当ではあるが、証拠資料により認定される事実関係との間にくいちがいがあつてその申立を認容することができないと判断される場合においても、その訴訟の経過や訴訟資料、証拠資料からみて、別個の法律構成に基づく事実関係が主張されるならば原告の申立を認容することがで…