請求原因として主張された事実関係とこれに基づく法律構成とがそれ自体正当ではあるが、証拠資料により認定される事実関係との間にくいちがいがあつてその申立を認容することができないと判断される場合においても、その訴訟の経過や訴訟資料、証拠資料からみて、別個の法律構成に基づく事実関係が主張されるならば原告の申立を認容することができ、当事者間における紛争の根本的解決が期待できるにかかわらず、原告においてその主張をせず、かつ、主張しないことが明らかに原告の誤解または不注意に基づくものと認められるようなときは、事実審裁判所は、その釈明の内容が別個の請求原因にわたる結果となる場合でも、その権能として、原告に対しその主張の趣旨とするところを釈明し、場合によつては発問の形式によつて具体的な法律構成を示唆して真意を確かめることも許されるものと解すべきである。
釈明の内容が別個の請求原因にわたる場合と裁判所の釈明権能
民訴法127条
判旨
裁判所は、当事者が不注意等により適切な法律上の主張をしていない場合、紛争の根本的解決のため、別個の請求原因にわたる内容であっても、釈明権を行使して具体的な法律構成を示唆し、真意を確かめることができる。
問題の所在(論点)
裁判所が当事者に対し、現在の主張とは異なる別個の法律構成(請求原因)を具体的に示唆して釈明を行うことは、釈明権の限界を逸脱しないか。
規範
釈明権(民事訴訟法149条)は、弁論主義の形式的適用による不合理を修正し、紛争の真の解決を図るために認められる。当事者が主張する法律構成が証拠資料と合致せず請求を認容できない場合でも、訴訟経過や証拠資料からみて別個の法律構成に基づけば請求認容が可能であり、かつ、適切な主張がなされないことが当事者の誤解や不注意によると認められるときは、例え別個の請求原因にわたる場合であっても、裁判所は具体的な法律構成を示唆して釈明をすることが許される。
重要事実
原告(被上告人)は、当初「被告会社(上告人)と第三者との売買契約を連帯保証した」として保証債務の履行を求めたが、一審で被告会社と第三者の契約関係が否定された。控訴審において、裁判所が具体的な示唆を含む釈明を行った結果、原告は「被告会社との間で一種の請負契約を締結し、被告会社が直接の支払義務を負う」との法律構成(請求原因)に変更し、請求が認容された。被告側は、このような具体的な示唆を伴う釈明は釈明権の範囲を逸脱し、著しく公正を欠くと主張して上告した。
あてはめ
本件では、当初の主張どおりでは請求が棄却される蓋然性が高かったが、一審からの訴訟経過や証拠資料によれば、被告会社が下請け的に原告を利用して納入を継続していた実態が伺える。原告が適切な法律構成を主張しなかったのは不注意によるものと認められ、また被告側も保証の事実自体を積極的に争うなど防御の機会は与えられていた。したがって、裁判所が紛争の根本的解決のために具体的な法律構成を示唆して原告の真意を正したことは、釈明権行使の目的(紛争の真の解決)に照らし相当である。
結論
別個の請求原因にわたる示唆的な釈明であっても、本件のような訴訟経過に照らせば釈明権の範囲を逸脱した違法なものとはいえない。上告棄却。
実務上の射程
弁論主義との緊張関係にある「示唆的釈明」の許容限度を示す重要判例である。答案では、単なる事実関係の不明確を正す「消極的釈明」を超え、新たな主張を促す「積極的釈明」が許される要件として、①請求認容の可能性、②不注意・誤解の存在、③紛争の根本的解決の必要性の3点を本判決の規範から抽出して論じるべきである。
事件番号: 平成16(オ)1653 / 裁判年月日: 平成17年7月14日 / 結論: 破棄差戻
元本債権及びこれに対する遅延損害金債権の支払請求に対する抗弁として,被告が,いずれの債権についても同時に原告に対する滞納処分としての差押えがされその全額を支払ったと主張する一方,遅延損害金債権のみが差押債権として記載された債権差押通知書及び差押債権受入金として上記各債権の全額を領収した旨の記載がある領収証書を書証として…