判旨
「見本として受け取ったので売買は成立していない」との陳述は売買契約の積極否認であって独立の主張ではない。また、特定の文言が儀礼的意義を持つとする主張は、商慣習の主張があったとは認められないため、裁判所が商慣習の有無を判断する必要はない。
問題の所在(論点)
1. 「見本であるから契約不成立である」との陳述が独立した主張(抗弁)にあたり、裁判所の判断遺脱となるか。2. 用語の儀礼的意義に関する主張が、裁判所が判断すべき「商慣習」の主張にあたるか。
規範
1. 相手方の主張する法律関係と両立しない事実の陳述(積極否認)は、独立した主張ではなく、相手方の主張に対する否認にすぎない。2. 特定の用語が儀礼的意義を持つという事実上の主張は、直ちに商慣習(民法92条)の存在を主張したものとは解されない。
重要事実
上告人が被上告人に対し売買代金の支払いを求めた事案。被上告人は「現品は『見本』として送ってもらったものであり、気に入ったら買い受ける趣旨であったから、売買契約は成立していない」と主張した。これに対し上告人は、商人間で「見本」という言葉は謙譲の儀礼的意義で使われる慣用語であり、文字通り解すべきではないと主張した。原審は、売買の不成立を認め、上告人が主張する慣用語の意義については判断を示さなかった。
あてはめ
1. 被上告人の「見本であるから代金支払義務はない」との陳述は、上告人の主張する売買契約の成立を正面から否定する「積極否認」に該当する。したがって、これは独立の争点を構成するものではなく、裁判所がこれに直接答えないとしても判断遺脱の問題は生じない。2. 上告人が主張した「『見本』という語は商人間の取引で儀礼的に使われる」との点は、あくまで単なる言葉の解釈や事実上の説明にとどまる。商慣習そのものの存在を主張したものとは認められないため、原審が商慣習の有無を判断しなかったことに違法はない。
結論
被上告人の陳述は積極否認であり、また上告人の主張も商慣習の主張とは認められないため、原判決に判断遺脱や理由不備の違法はない。上告棄却。
実務上の射程
民事訴訟法における「否認」と「抗弁」の区別、および釈明権や判断遺脱の限界を確認する際に有用である。特に、契約成立を争う際の「積極否認」の性質と、商慣習の主張として認められるための具体性の程度を示す射程を持つ。
事件番号: 昭和25(オ)258 / 裁判年月日: 昭和27年6月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が商法526条に基づく代金減額等の法的効果を意図したとしても、その主張を明確にし適切な立証をなすのは当事者自身の責務であり、これを行わない場合に裁判所が釈明権を行使しなかったとしても違法とはいえない。 第1 事案の概要:売掛代金請求事件において、被告(上告人)は品物が粗悪である旨の陳述をした…