1 県が,漁業協同組合との間でその所属組合員全員が被る漁業損失の総額を対象とする漁業補償交渉をする際の手持ち資料として作成した補償額算定調書中,その総額を積算する過程で算出した文書提出命令申立人に係る補償見積額が記載された部分は,県が各組合員に対する補償額の決定,配分を同組合の自主的な判断にゆだねることを前提とし,そのために上記総額を算出する課程の個別の補償見積額は上記の交渉の際にも明らかにしなかったこと,上記部分が開示されることにより,上記前提が崩れ,同組合による補償額の決定,配分に著しい支障を生じるおそれがあり,今後,県が同様の漁業補償交渉を円滑に進める際の著しい支障ともなり得ることなど判示の事情の下においては,民訴法220条4号ロ所定の文書に該当する。 2 公務員の職務上の秘密に関する文書であって,その提出により公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるものについては,民訴法220条3号に基づく提出義務を認めることはできない。 (1につき,補足意見がある。)
1 県が漁業協同組合との間で漁業補償交渉をする際の手持ち資料として作成した補償額算定調書中の文書提出命令申立人に係る補償見積額が記載された部分が民訴法220条4号ロ所定の文書に該当するとされた事例 2 民訴法220条4号ロに該当する文書と同条3号に基づく提出義務
民訴法191条,民訴法197条1項1号,民訴法220条3号,民訴法220条4号ロ
判旨
公共事業の漁業補償交渉における個別の補償見積額を記載した内部資料は、一括補償・自主配分という交渉方式の前提を崩し、今後の同種交渉や配分業務に著しい支障を及ぼすため、民訴法220条4号ロの「公務員の職務上の秘密」に該当し、提出義務を負わない。
問題の所在(論点)
公共事業の漁業補償において、自治体が算定過程で作成した個別の補償見積額等を記載した手持ち資料(補償額算定調書)が、民訴法220条4号ロの「公務員の職務上の秘密に関する文書」および「公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの」に該当するか。
規範
1. 民訴法220条4号ロにいう「公務員の職務上の秘密に関する文書」とは、公務員が職務上作成・取得した文書のうち、公開されることにより公務の民主的・能率的な運営を阻害する実質的な内容を含むものをいう。 2. 「公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれ」の有無は、当該情報の性質、開示により保護されるべき利益と損なわれる公的利益(信頼関係の維持、将来の同種事務の円滑な遂行等)を比較衡量して判断する。 3. 同法220条3号の引用文書等であっても、上記「職務上の秘密」に該当し開示により公務遂行に著しい支障が生じる場合は、法191条等の趣旨に照らし提出義務を負わない。
事件番号: 平成15(許)40 / 裁判年月日: 平成16年5月25日 / 結論: 破棄自判
1 刑訴法47条所定の「訴訟に関する書類」に該当する文書について文書提出命令の申立てがされた場合であっても,当該文書が民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当し,かつ,当該文書の保管者によるその提出の拒否が,民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の有無,程度,当該文書が開示されることによる被告人,被疑者等…
重要事実
1. 地方自治体(抗告人)が空港拡張事業に伴う漁業補償において、漁協(E漁協)との間で、個別の補償額を明らかにせず総額で合意し、配分は漁協の自主判断に委ねる手法で補償協定を締結した。 2. 相手方(組合員)は、自らの許可漁業に対する補償金の支払を求めて訴えを提起し、自治体が所持する「補償額算定調書(相手方分)」の文書提出命令を申し立てた。 3. 当該文書には、自治体が算定過程で一定の判断を加えた認定数値や見積額が記載されており、交渉相手の漁協にも開示されていなかった。 4. 自治体は今後も同様の交渉方式を予定している。
あてはめ
1. 本件文書は、総額積算の過程で種々のデータに基づき自治体が独自の評価・判断を加えて算出した見積額であり、内部的な手持ち資料にすぎないから、「職務上の秘密」に当たる。 2. 漁協との交渉は「総額合意・自主配分」を前提として円滑に進められており、個別の積算数値が開示されれば、漁協による配分作業において意見の対立を招くなど「著しい支障」を生ずる蓋然性が高い。 3. また、将来の同種交渉においても、自治体と漁協間の信頼関係を損ない、円滑な補償業務の遂行を困難にするおそれがある。 4. 相手方が交渉委員として経緯を認識していた等の事情を考慮しても、秘匿されるべき公的利益が優先される。
結論
本件文書は民訴法220条4号ロに該当し、かつ同号所定の除外事由(公務遂行への著しい支障)があるため、提出義務を負わない。また、同条3号の該当性を検討するまでもなく、同様の理由で提出を拒める。
実務上の射程
行政庁が保有する内部的な積算資料や見積資料について、開示が将来の同種事務(特に相手方との信頼関係が不可欠な交渉事務)の性質を根本から変容させ、能率を著しく低下させる場合には、特段の事情がない限り「職務上の秘密」として提出義務が否定される。答案上、一般条項である4号ロの解釈において、行政実務の連続性と円滑性を重視する枠組みとして活用できる。
事件番号: 平成16(許)14 / 裁判年月日: 平成16年11月26日 / 結論: 棄却
1 破たんした保険会社につき選任された保険管理人が,金融監督庁長官から,保険業法(平成11年法律第160号による改正前のもの)313条1項,242条3項に基づき,当該保険会社の破たんについての旧役員等の経営責任を明らかにするために弁護士,公認会計士等の第三者を委員とする調査委員会を設置して調査を行うことを命じられたため…
事件番号: 平成17(行フ)4 / 裁判年月日: 平成17年7月22日 / 結論: 破棄差戻
1 難民であると主張する外国人に対する外国官憲作成名義の逮捕状等の写しの原本の存在及び成立の真正に関し,法務省が外務省を通じて同国公機関に対して照会を行った際に同省に交付した依頼文書の控えにつき,監督官庁が,民訴法223条4項1号の「他国との信頼関係が損なわれるおそれ」があり,同法220条4号ロ所定の文書に該当する旨の…
事件番号: 平成11(許)20 / 裁判年月日: 平成12年3月10日 / 結論: その他
一 証拠調べの必要性を欠くことを理由として文書提出命令の申立てを却下する決定に対しては、右必要性があることを理由として独立に不服の申立てをすることはできない。 二 民訴法一九七条一項三号所定の「技術又は職業の秘密」とは、その事項が公開されると、当該技術の有する社会的価値が下落しこれによる活動が困難になるもの又は当該職業…
事件番号: 平成11(許)35 / 裁判年月日: 平成12年12月14日 / 結論: 破棄自判
信用金庫の会員が代表訴訟において信用金庫の貸出稟議書につき文書提出命令の申立てをしたことは、当該貸出稟議書が民訴法二二〇条四号ハ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらない特段の事情とはいえない。 (反対意見がある。)