1 破たんした保険会社につき選任された保険管理人が,金融監督庁長官から,保険業法(平成11年法律第160号による改正前のもの)313条1項,242条3項に基づき,当該保険会社の破たんについての旧役員等の経営責任を明らかにするために弁護士,公認会計士等の第三者を委員とする調査委員会を設置して調査を行うことを命じられたため,上記命令の実行として弁護士及び公認会計士を委員とする調査委員会を設置し,当該調査委員会から上記調査の結果が記載された調査報告書の提出を受けたという事実関係の下では,当該調査報告書は,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらない。 2 民訴法197条1項2号所定の「黙秘すべきもの」とは,一般に知られていない事実のうち,弁護士等に事務を行うこと等を依頼した本人が,これを秘匿することについて,単に主観的利益だけではなく,客観的にみて保護に値するような利益を有するものをいう。 3 破たんした保険会社につき選任された保険管理人が,金融監督庁長官から,保険業法(平成11年法律第160号による改正前のもの)313条1項,242条3項に基づき,当該保険会社の破たんについての旧役員等の経営責任を明らかにするために弁護士,公認会計士等の第三者を委員とする調査委員会を設置して調査を行うことを命じられたため,上記命令の実行として弁護士及び公認会計士を委員とする調査委員会を設置し,当該調査委員会から上記調査の結果が記載された調査報告書の提出を受けたという事実関係の下では,当該調査報告書は,民訴法220条4号ハ所定の「第197条第1項第2号に規定する事実で黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書」に当たらない。
1 保険管理人によって設置された弁護士及び公認会計士を委員とする調査委員会が作成した調査報告書が民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらないとされた事例 2 民訴法197条1項2号所定の「黙秘すべきもの」の意義 3 保険管理人によって設置された弁護士及び公認会計士を委員とする調査委員会が作成した調査報告書が民訴法220条4号ハ所定の「第197条第1項第2号に規定する事実で黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書」に当たらないとされた事例
民訴法197条1項2号,民訴法220条4号ニ,民訴法220条4号ハ,保険業法(平成11年法律第160号による改正前のもの)242条3項,保険業法(平成11年法律第160号による改正前のもの)313条1項
判旨
行政庁の命令に基づき設置された調査委員会による調査報告書は、公益目的で作成されたものであり、専ら所持者の利用に供する文書(民訴法220条4号ニ)には当たらない。また、同報告書に記載された事実は、客観的にみて保護に値する秘匿の利益があるとはいえず、職業上の秘密(同法197条1項2号)として黙秘すべきものにも当たらない。
問題の所在(論点)
1. 破綻した金融機関の調査報告書が、民訴法220条4号ニの「専ら所持者の利用に供するための文書(自己利用文書)」に該当するか。 2. 調査報告書に記載された事実が、同法197条1項2号の弁護士・公認会計士等の「黙秘すべきもの(職業上の秘密)」に該当し、同法220条4号ハの除外事由となるか。
事件番号: 平成11(許)26 / 裁判年月日: 平成12年3月10日 / 結論: 破棄自判
文部大臣の諮問機関である教科用図書検定調査審議会が作成した教科用図書についての判定内容を記載した書面及びその内容を記載した文部大臣に対する報告書は、民訴法二二〇条三号後段の文書に当たらない。
規範
1. 「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」(民訴法220条4号ニ)とは、作成目的、記載内容、所持の経緯等に照らし、専ら内部利用目的で外部開示が予定されず、開示により個人のプライバシー侵害や自由な意思形成の阻害等、所持者側に看過し難い不利益が生じるおそれがある文書をいう(特段の事情がない限り)。 2. 「黙秘すべきもの」(同法197条1項2号)とは、非公知の事実のうち、本人がそれを秘匿することについて、主観的利益のみならず客観的にみて保護に値する利益を有するものをいう。
重要事実
保険管理人(弁護士及び公認会計士)は、金融監督庁長官の命令に基づき、破綻した相互会社である抗告人の旧役員等の経営責任を調査するため、第三者による調査委員会を設置した。同委員会は調査結果をまとめた調査報告書(本件文書)を作成し、保険管理人に提出した。相手方は、抗告人の旧役員らによる虚偽の財務内容公表を立証するため、本件文書の提出命令を申し立てた。
あてはめ
1. 本件文書は、法令の根拠に基づく行政命令に従い、旧役員の責任解明という公益目的で作成されたものであり、専ら内部利用のために作成されたものではない。また、旧役員の経営責任に関する事項であり、責任と無関係な個人のプライバシー等が記載される性質のものでもないため、看過し難い不利益が生じるおそれはない。 2. 保険管理人及び調査委員会は保険契約者等の保護という公益のために職務を行っており、そこに加わった弁護士らも公益的調査の委員として関与したにすぎない。したがって、記載内容は客観的にみて秘匿すべき保護に値する利益があるとはいえない。
結論
本件文書は自己利用文書(4号ニ)にも、職業上の秘密が記載された文書(4号ハ)にも該当しないため、文書提出命令の対象となる。
実務上の射程
内部調査報告書の文書提出義務が問題となる場面で活用できる。特に「行政からの命令や指導」など外部的・公益的な要因が作成の契機となっている場合や、役員の責任追及という性質を持つ場合には、自己利用文書性が否定されやすい。また、弁護士等が作成に関与していても、それが「公益目的の調査委員」という立場であれば、職業上の秘密(黙秘すべきもの)の抗弁も制限されることを示している。
事件番号: 平成11(許)2 / 裁判年月日: 平成11年11月12日 / 結論: 破棄自判
一 ある文書が、その作成目的、記載内容、これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯、その他の事情から判断して、専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であって、開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど、開示によって所…
事件番号: 平成17(許)39 / 裁判年月日: 平成18年2月17日 / 結論: 棄却
銀行の営業関連部,個人金融部等の本部の担当部署から各営業店長等にあてて発出されたいわゆる社内通達文書につき,その内容は,変額一時払終身保険に対する融資案件を推進するとの一般的な業務遂行上の指針を示し,あるいは,客観的な業務結果報告を記載したものであり,取引先の顧客の信用情報や銀行の高度なノウハウに関する記載は含まれてお…
事件番号: 平成15(許)48 / 裁判年月日: 平成16年2月20日 / 結論: 破棄自判
1 県が,漁業協同組合との間でその所属組合員全員が被る漁業損失の総額を対象とする漁業補償交渉をする際の手持ち資料として作成した補償額算定調書中,その総額を積算する過程で算出した文書提出命令申立人に係る補償見積額が記載された部分は,県が各組合員に対する補償額の決定,配分を同組合の自主的な判断にゆだねることを前提とし,その…
事件番号: 平成20(許)18 / 裁判年月日: 平成20年11月25日 / 結論: 棄却
1 金融機関を当事者とする民事訴訟の手続の中で,当該金融機関が顧客から守秘義務を負うことを前提に提供された非公開の当該顧客の財務情報が記載された文書につき,文書提出命令が申し立てられた場合において,次の(1),(2)の事情の下では,上記文書は,当該金融機関の職業の秘密が記載された文書とはいえず,民訴法220条4号ハ所定…