1 株主総会の決議を経ずに支払われた役員報酬について事後に株主総会の決議を経た場合には,当該決議の内容等に照らして商法(平成14年法律第44号による改正前のもの)269条及び商法279条1項の規定の趣旨目的を没却するような特段の事情があると認められない限り,当該役員報酬の支払は株主総会の決議に基づく適法有効なものになる。 2 株主総会の決議を経ずに役員報酬が支払われたことを理由として当該報酬相当額の賠償を求める株主代表訴訟において,被告とされた役員らが同訴訟提起後に当該報酬につき株主総会の決議を経たことを主張することは,当該決議に同訴訟を同役員らの勝訴に導く意図があったとしても,それだけでは訴訟上の信義に反して許されないものとはいえない。
1 株主総会の決議を経ずに支払われた役員報酬について事後に株主総会の決議を経た場合における当該役員報酬の支払の効力 2 株主総会の決議を経ずに役員報酬が支払われたことを理由として当該報酬相当額の賠償を求める株主代表訴訟において被告とされた役員らが同訴訟提起後に当該報酬につき株主総会の決議を経たことを主張することと訴訟上の信義
商法(平成13年法律第128号による改正前のもの)267条,商法(平成14年法律第44号による改正前のもの)269条,商法279条1項,民訴法2条,民法1条2項
判旨
株主総会の決議を経ずに役員報酬が支払われた場合でも、事後的に株主総会で報酬支払を追認する決議がなされたときは、特段の事情がない限り、当該報酬の支払は適法有効となる。
問題の所在(論点)
株主総会決議に基づかずに支払われた役員報酬について、事後的に報酬額を定める株主総会決議(追認決議)を行うことにより、支払を適法化することができるか。
規範
取締役・監査役の報酬を株主総会決議事項とする趣旨(会社法361条等)は、お手盛り防止及び監査役の独立性保持にあり、役員報酬の決定を株主の自主的判断にゆだねる点にある。したがって、事後的に総会決議を経た場合も、上記趣旨が達せられるといえる。ゆえに、決議内容等に照らして上記規定の趣旨目的を没却するような特段の事情がない限り、事後的決議により役員報酬の支払は適法有効になる。
重要事実
非公開会社であるD社は、定款で役員報酬を株主総会決議で定めるとしつつ、設立時から数年間、総会決議を経ずに取締役会決議のみで計5850万円の役員報酬を支払った。これに対し株主である被上告人が取締役らの賠償責任を追及する株主代表訴訟を提起したところ、訴訟提起後にD社は、過去に遡って報酬総額を決定する内容の株主総会決議を有効に成立させた。
あてはめ
本件における事後的決議は、一部株主の反対はあるものの有効に成立しており、株主の自主的判断による意思決定がなされている。本件決議が本件訴訟を上告人らの勝訴に導く意図でなされたとしても、そのことのみをもって直ちに上記規定の趣旨を没却する特段の事情があるとはいえない。したがって、本件役員報酬の支払は、事後的決議により適法有効なものとなったといえる。
結論
事後的決議により役員報酬の支払は適法化されるため、会社に損害は発生しておらず、取締役らの賠償責任は認められない。
実務上の射程
役員報酬の事前決議欠缺を事後的に治癒できることを認めた重要判例である。答案上は、訴訟提起後であっても有効な追認が可能である点に注目し、被告側の抗弁として構成する。ただし「特段の事情」の有無については、株主構成や決議プロセスの公正性を慎重に検討する必要がある。
事件番号: 平成15(受)1154 / 裁判年月日: 平成18年4月10日 / 結論: 破棄差戻
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