株式会社の代表取締役甲らが容易に現金化が可能な約10億円の純資産を有する当該会社の全株式を合計2億円で売却したことにつき,それが不自然ではないといえるような特段の事情が存在しない上,上記売却は,甲らの全面的な信頼を受けて甲らの資産管理を受託していた乙が甲らの財産の保全,増加に必要であるとして提案し,甲らがこれに全面的に従ってされたものであり,乙が,買主である会社の全株式を有しており,その結果,労せずして多額の利益を得たといえるなど判示の事情の下においては,上記売却につき詐欺による取消し又は錯誤による無効が認められないとした原審の判断には,違法がある。
株式会社の代表取締役らが当該会社の全株式を売却したことにつき詐欺による取消し又は錯誤による無効が認められないとした原審の判断に違法があるとされた事例
民法95条,民法96条1項
判旨
非上場株式の売買において、売買価格が会社の純資産額に比して著しく低額であり、かつ売主が買主を自己の支配下にある会社と誤信していた可能性がある場合、売買の要素に錯誤があるか、あるいは相手方の欺罔行為による詐欺が成立するかを慎重に審理すべきである。
問題の所在(論点)
目的物の客観的価値と乖離した低廉な価格での譲渡、および買主の属性(自己の支配下にあるか否か)という点について、表意者に「錯誤」があるといえるか、あるいはFによる「詐欺」が認められるか。
規範
契約の要素に関わる重要な事実(目的物の価値や相手方の属性等)について、通常の経済合理性に照らして著しく不自然な取引条件が存在する場合、特段の事情がない限り、当事者の意思表示に錯誤(旧民法95条)があったことが推認される。また、信頼関係に乗じた働きかけにより、これらの重要事項について事実と異なる認識を抱かせて取引を誘引した場合には、詐欺(民法96条1項)の成否が問題となる。
重要事実
事件番号: 昭和42(オ)867 / 裁判年月日: 昭和45年1月22日 / 結論: その他
一、第一審判決を取り消し、事件を第一審に差し戻す旨の控訴審判決があつた場合においては、控訴人は、取消の理由となつた右判決の判断の違法をいうときにかぎり、右判決に対して上告の利益を有する。 二、定款により株主総会における議決権行使の代理資格を株主に制限している株式会社において、株主名簿上の株主でない甲に乙名義株式の議決権…
非上場会社である上告会社の株主A2・A3は、資産管理を全幅的に信頼していたFから提案を受け、同社の全株式を計2億円で被上告人らに売却した。しかし当時、上告会社は約10億円の純資産(預金26億円含む)を有しており、容易に現金化が可能であった。また、買主となった被上告人らはFが支配する会社であり、A2らの一族とは資本関係がなかったが、A2らはこれらを自らの支配下にある「関係する会社」であると誤信していた可能性がある。さらに、売買代金の原資がA2らの支配する別会社から流用された疑いもあった。
あてはめ
上告会社を清算すれば約10億円を取得できたにもかかわらず、その5分の1である2億円で売却することは、特段の事情がない限り極めて不自然であり、株式価値の認識に錯誤があったことがうかがわれる。また、Fが「関係する会社」に買い取らせると提案した経緯に照らせば、買主がA2らの支配が及ばない別資本の会社であったことは、相手方の属性に関する錯誤にあたる。A2らがFを全面的に信頼していたことや、Fが本件取引を通じて不当に多額の利益を得ている可能性を考慮すれば、Fによる欺罔の有無や錯誤の存否について、代金原資の出所を含め審理を尽くすべきである。
結論
本件各売買契約につき、錯誤や詐欺を直ちに否定した原審の判断には審理不尽の違法があるとして、破棄差戻しを命じる。
実務上の射程
親族間や顧問関係にある専門家との間で行われる非上場株式の譲渡において、主観的な信頼関係を背景とした著しく不当な価格設定がある場合、客観的指標(純資産額等)との乖離を根拠に錯誤・詐欺の主張を基礎づける論法として重要である。
事件番号: 平成1(オ)573 / 裁判年月日: 平成2年12月4日 / 結論: 棄却
一 株式を相続により準共有するに至った共同相続人は、商法二〇三条二項にいう「株主ノ権利ヲ行使スベキ者」の指定及びその旨の会社に対する通知を欠く場合には、特段の事情がない限り、株主総会決議不存在確認の訴えにつき原告適格を有しない。 二 株式を準共有する共同相続人間において商法二〇三条二項にいう「株主ノ権利ヲ行使スベキ者」…
事件番号: 昭和42(オ)1319 / 裁判年月日: 昭和43年4月12日 / 結論: 棄却
取締役・監査役の選任決議を内容とする株主総会決議の不存在確認の訴は、右取締役・監査役が退任した後においては、現在の法律関係ではなく即時確定の利益を欠くものである。
事件番号: 昭和35(オ)454 / 裁判年月日: 昭和36年12月21日 / 結論: 棄却
一 株主総会において株主が二派に分かれ、同一議案について二個の決議をなし、その一個がかしのある決議である場合、かしのない決議が後に成立したものであつても、これを適法のものとすることは差支ない。 二 株式の譲受人の氏名が株主名簿に記載されなくても、会社はこれを株主として取り扱うことを妨げない。