一 商法二六〇条二項一号にいう重要な財産の処分に当たるか否かは、当該財産の価額、その会社の総資産に占める割合、保有目的、処分行為の態様及び会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきである。 二 株式が、帳簿価額では七八〇〇万円で会社の総資産の約一・六パーセントに相当し、適正時価を把握し難く、その譲渡が、代価いかんによっては会社の資産及び損益に著しい影響を与え得るものであり、営業のため通常行われる取引に属さないなど判示の事実関係の下においては、右株式の譲渡は、商法二六〇条二項一号にいう重要な財産の処分に当たらないとはいえない。
一 商法二六〇条二項一号にいう重要な財産の処分に当たるか否かの判断基準 二 会社の総資産の約一・六パーセントに相当する価額の株式の譲渡が商法二六〇条二項一号にいう重要な財産の処分に当たらないとはいえないとされた事例
商法260条
判旨
取締役会設置会社における「重要な財産の処分」(会社法362条4項1号)の該否は、価額、総資産比、保有目的、態様、社内慣行等を総合考慮して判断すべきである。形式的な資産比率のみならず、当該財産の性質が会社の支配関係や経営に与える影響、及び社内の決定手続の実態を重視すべきとした。
問題の所在(論点)
取締役会決議を要する「重要な財産の処分」の判断基準、特に資産比率が僅少な場合の判断の在り方が問題となった。
規範
「重要な財産の処分」(会社法362条4項1号)に該当するか否かは、①当該財産の価額、②会社の総資産に占める割合、③当該財産の保有目的、④処分行為の態様、⑤会社における従来の取扱い等の諸事情を総合的に考慮して判断すべきである。
重要事実
上告人の代表取締役Dは、取締役会決議を経ずに、上告人が保有するE社株式(代金7986万円)を被上告人に譲渡した。上告人の総資産(約47億8640万円)に対する本件株式の帳簿価額(7800万円)の割合は約1.6%であった。一方で、E社は上告人株式の17.86%を保有する相互持合の関係にあり、上告人の株主総会で議決権を行使する立場にあった。また、上告人では過去、少額の株式譲渡についても取締役会決議を経ていた実態があった。
事件番号: 平成15(受)1259 / 裁判年月日: 平成16年7月8日 / 結論: 破棄差戻
株式会社の代表取締役甲らが容易に現金化が可能な約10億円の純資産を有する当該会社の全株式を合計2億円で売却したことにつき,それが不自然ではないといえるような特段の事情が存在しない上,上記売却は,甲らの全面的な信頼を受けて甲らの資産管理を受託していた乙が甲らの財産の保全,増加に必要であるとして提案し,甲らがこれに全面的に…
あてはめ
まず、本件株式は帳簿価額で7800万円と高額であり、適正時価の把握が困難な非上場株式であることから、対価次第で会社の損益に著しい影響を与え得る。次に、本件譲渡は営業上通常行われる取引ではない。さらに、譲渡対象のE社は上告人株式の約18%を保有する主要株主であり、その株式を処分することは、上告人とE社との関係や上告人の経営支配に影響を及ぼす重要性を有する(③保有目的・性質)。加えて、上告人では少額の株式譲渡でも取締役会が可否を決してきた慣行が認められる(⑤従来の取扱い)。以上を総合すれば、資産比率が約1.6%と低くても、重要な財産の処分に当たり得る。
結論
本件株式譲渡は「重要な財産の処分」に該当する余地があり、取締役会決議を欠くことによる無効を主張し得る。原審が資産比率等の形式面を重視してこれを否定したことは、法令の解釈適用の誤りである。
実務上の射程
答案では、まず資産比率(概ね1%以上が目安)に触れた上で、本判例を根拠に「性質的側面(支配権への影響等)」や「手続的側面(社内慣行)」を拾い、総合考慮の枠組みで論じる際に用いる。特に持合株式の処分や事業の根幹に関わる資産の処分において、量的基準を補完するロジックとして極めて重要である。
事件番号: 平成1(オ)1006 / 裁判年月日: 平成5年3月30日 / 結論: 棄却
一 代表取締役が取締役と認めていない者は、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律二四条一項にいう取締役に当たらない。 二 いわゆる一人会社の株主がした株式譲渡は、定款所定の取締役会の承認がなくても、会社に対する関係においても有効である。
事件番号: 昭和61(オ)965 / 裁判年月日: 昭和63年3月15日 / 結論: 破棄自判
株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨定款に定められているのに、競売による株式取得につき取締役会の承認がない場合には、競売前の株主が、なお会社に対して株主としての地位を有する。
事件番号: 平成20(受)1207 / 裁判年月日: 平成21年2月17日 / 結論: 棄却
いわゆる持株会が採用した株式譲渡ルールに従い,株式会社の従業員が持株会から譲り受けた株式を個人的理由により売却する必要が生じたときは持株会が額面額でこれを買い戻す旨の当該従業員と持株会との間の合意は,次の(1)〜(4)などの判示の事情の下では,会社法107条及び127条の規定に反するものではなく,公序良俗にも反せず,有…