胎位が骨盤位であることなどから帝王切開術による分娩を強く希望する旨を担当医師に伝えていた夫婦が,担当医師の説明により経膣分娩を受け入れたところ,経膣分娩により出生した子が分娩後間もなく死亡した場合につき,帝王切開術を希望する旨の申出には医学的知見に照らし相応の理由があったこと,担当医師は,一般的な経膣分娩の危険性について一応の説明はしたものの,胎児の最新の状態と経膣分娩の選択理由を十分に説明しなかった上,分娩中に何か起こったらすぐにでも帝王切開術に移れるから心配はないなどと異常事態が生じた場合の経膣分娩から帝王切開術への移行について誤解を与えるような説明をしたことなど判示の事情の下においては,担当医師の説明は,上記夫婦に対し,胎児の最新状態を認識し,経膣分娩の場合の危険性を具体的に理解した上で,担当医師の下で経膣分娩を受け入れるか否かについて判断する機会を与えるべき義務を尽くしたものとはいえない。
帝王切開術による分娩を強く希望していた夫婦に経膣分娩を勧めた医師の説明が同夫婦に対して経膣分娩の場合の危険性を理解した上で経膣分娩を受け入れるか否かについて判断する機会を与えるべき義務を尽くしたものとはいえないとされた事例
民法415条,民法709条
判旨
医師は、患者が帝王切開術を強く希望し、それに相応の医学的理由がある場合、最新の胎児状態や経膣分娩の具体的リスク、緊急時の帝王切開への移行限界を説明し、分娩方法を選択する機会を与える義務を負う。本件医師の説明は、緊急時の移行について誤解を与える断定的なものであり、説明義務を尽くしたとはいえない。
問題の所在(論点)
医師が、患者の希望する特定の分娩方法(帝王切開)を採用せず、医師の推奨する分娩方法(経膣分娩)を実施する場合において、医師に求められる説明義務の内容。特に、緊急時の対応可能性について断定的な説明をしたことの是非。
規範
医師は、患者が特定の診療行為(帝王切開)を強く希望し、その申出に医学的知見から相応の理由がある場合には、診療方針の決定にあたり、①最新の具体的状況(胎児の推定体重、胎位等)に基づく判断理由を具体的に説明し、②選択肢に伴うリスク(経膣分娩の危険性や緊急時の帝王切開移行の限界等)を告げ、患者がその方針を受け入れるか否かを判断する機会を与えるべき義務を負う。
重要事実
骨盤位の胎児を妊娠したXは、帝王切開を強く希望したが、医師Bは「経膣分娩は可能」「何かあればすぐに帝王切開に移行できる」と説明し、Xを説得した。Bは出産直前の推定体重測定を行わず、胎位が複殿位に変わった際もXに告知しなかった。その後、人工破膜により臍帯脱出が生じたが、帝王切開への移行には時間を要すると判断され、経膣分娩が続行された結果、児は重度仮死で出生し死亡した。
あてはめ
Xらの帝王切開希望には、骨盤位や推定体重等の医学的知見に照らし相応の理由があった。それに対し、Bは最新の推定体重を測定せず、胎位の変化も告げなかった。さらに「すぐにでも帝王切開に移れる」との説明は、実際には消毒や麻酔に時間を要し移行が困難な事態が生じ得る実態に反し、誤解を与える断定的なものであった。これにより、Xらが最新の状態を認識し、危険性を理解した上で判断する機会が奪われたといえる。
結論
Bは説明義務を尽くしたとはいえず、Xらが分娩方法について自ら自由に意思決定をする権利を侵害した。したがって、Bの不法行為責任(および病院の使用者責任・債務不履行責任)が認められる余地がある。
実務上の射程
患者に自己決定権がある場面において、医師が自分の推奨する方針へ誘導するためにリスクを過少評価したり、断定的な安全宣言をしたりすることを厳しく戒める。特に、高度な専門的判断を要する医療現場であっても、患者の具体的懸念に相応の理由がある限り、詳細なインフォームド・コンセントが必要であることを示す。
事件番号: 平成10(オ)576 / 裁判年月日: 平成13年11月27日 / 結論: 破棄差戻
乳がんの手術に当たり,当時医療水準として確立していた胸筋温存乳房切除術を採用した医師が,未確立であった乳房温存療法を実施している医療機関も少なくなく,相当数の実施例があって,乳房温存療法を実施した医師の間では積極的な評価もされていること,当該患者の乳がんについて乳房温存療法の適応可能性のあること及び当該患者が乳房温存療…