債権に対する仮差押えの執行後に本執行がされた場合において,仮差押命令及びその執行の申立てが取り下げられたときは,第三債務者は,仮差押えの執行後本執行前にした被差押債権の弁済をもって差押債権者に対抗することができる。
債権に対する仮差押えの執行後に本執行がされた場合において仮差押えが取り下げられたときの仮差押えの執行後本執行前にされた被差押債権の弁済の差押債権者に対する効力
民法481条,民事保全法50条,民訴法262条1項
判旨
金銭債権の仮差押え後に本執行が開始された場合であっても、債権者が仮差押えを取り下げたときは、仮差押えによる弁済禁止の効力は遡及的に消滅する。その結果、第三債務者は、仮差押え後にした弁済をもって差押債権者に対抗することができる。
問題の所在(論点)
金銭債権の仮差押えから本執行による差押えに移行した後、債権者が仮差押えを取り下げた場合、仮差押えによる弁済禁止の効力(民事保全法50条1項)は遡及的に消滅し、第三債務者は仮差押え後の弁済を債権者に対抗できるか。
規範
仮差押命令の送達による弁済禁止の効力(民事保全法50条1項)は、仮差押えの存続を前提とするものである。したがって、仮差押えが取り下げられた場合には、民事保全法7条・民訴法262条1項の類推適用により、弁済禁止の効力は遡及的に消滅する。この理は、仮差押えから本執行へ移行した後であっても、仮差押えが取り下げられた以上、同様に解すべきである。
重要事実
債権者(上告人)は、債務者(D)の第三債務者(被上告人)に対する請負代金債権を仮差押えし、その命令は平成9年5月3日に送達された。その後、上告人は本執行として差押命令を得て、平成11年6月29日に送達を受け取立権を取得した。しかし、被上告人はこの本執行までの間に債務者へ弁済を済ませていた。さらにその後、上告人は本件仮差押えの申立て及び執行を取り下げたため、被上告人が当該弁済を上告人に対抗できるかが争われた。
あてはめ
本件において、被上告人は仮差押えの送達後、本執行による差押えの効力が生ずるまでの間に弁済を行っている。仮差押えが存続している間は、この弁済を上告人に対抗できないのが原則である。しかし、上告人は後に本件仮差押えを取り下げており、これにより仮差押えによる弁済禁止の効力は遡及的に消滅したものと評価される。本執行が開始された事実は、仮差押えの取下げによる遡及的消滅の法理を妨げるものではない。
結論
仮差押えが取り下げられた以上、弁済禁止の効力は遡及的に消滅するため、第三債務者は弁済をもって債権者に対抗することができる。したがって、取立請求は認められない。
実務上の射程
仮差押えと本執行の効力の独立性を認める判断である。答案上は、債権差押えの効力発生時期や、先行する仮差押えの取下げが既になされた弁済の有効性に及ぼす影響を論ずる際に活用する。本執行へ移行した後であっても、先行する仮差押えを不用意に取り下げると、仮差押え期間中の弁済の対抗を許してしまう実務上のリスクを示す事例としても重要である。
事件番号: 令和3(受)1620 / 裁判年月日: 令和5年11月27日 / 結論: 破棄自判
抵当不動産の賃借人は、抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権を差し押さえる前に、賃貸人との間で、抵当権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権と上記の差押えがされた後の期間に対応する賃料債権とを直ちに対当額で相殺する旨の合意をしたとしても、当該合意の効力を抵当権者に対抗することはできない。 (意見がある。)