1 住民監査請求においては,対象とする財務会計上の行為又は怠る事実を,他の事項から区別し特定して認識することができるように,個別的,具体的に摘示することを要するが,監査請求書及びこれに添付された事実を証する書面の各記載,監査請求人が提出したその他の資料等を総合して,住民監査請求の対象が特定の財務会計上の行為等であることを監査委員が認識することができる程度に摘示されているのであれば,これをもって足りるのであり,このことは,対象とする財務会計上の行為等が複数である場合であっても異ならない。 2 県が,複数年度の旅費の支出について1件ごとに調査し,公務出張の事実がないのにされた支出を事務処理上不適切な支出として,その合計額を公表したという事実関係の下においては,上記の調査において事務処理上不適切な支出とされたものが違法な公金の支出であるとしてされた住民監査請求は,対象とする各支出について,支出に係る部課,支出年月日,支出金額等の詳細を個別的,具体的に摘示していなくとも,請求の対象の特定に欠けるところはない。
1 住民監査請求における対象の特定の程度 2 住民監査請求が請求の対象の特定に欠けるところはないとされた事例
地方自治法242条1項,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)242条の2第1項
判旨
住民監査請求(地方自治法242条1項)における対象の特定は、監査委員が対象を他の事項から区別して認識できる程度であれば足りる。内部調査報告書等により件数や総額が示されている場合、個々の支出詳細が摘示されていなくても、監査委員において特定可能であれば特定を欠くとはいえない。
問題の所在(論点)
住民監査請求の適法要件として、複数の財務会計上の行為を対象とする場合、どの程度の個別的・具体的摘示があれば「対象の特定」として許容されるか(地方自治法242条1項)。
規範
住民監査請求において対象とする財務会計上の行為等を特定するにあたっては、他の事項から区別して認識できるように個別的・具体的に摘示することを要する。ただし、監査請求書、添付書類、その他の資料等を総合して、監査委員が請求の対象を特定して認識できる程度に摘示されていれば足り、それを超えて詳細(部課・年月日・金額等)を網羅的に摘示することまでを要するものではない。この理は、対象となる行為が複数である場合であっても同様である。
重要事実
福井県の住民らが、県の旅費支出に違法なものがあるとして住民監査請求を行った。請求の際、住民らは県が自ら実施した内部調査結果(旅費調査委員会等の報告書)を根拠として、同報告書で「事務処理上不適切」と分類された旅費総額(約17億円超)を一括して対象とした。監査委員は、個別の支出が特定されていないとして請求を却下したため、住民らが住民訴訟を提起した。
あてはめ
本件の監査請求は、県自らが設置した旅費調査委員会等による調査において「事務処理上不適切」と判断された旅費支出を対象としている。同調査は旅費1件ごとに不適切か否かを審査した上で集計・公表されたものである。そうであれば、たとえ請求書自体に個々の支出負担行為の詳細(日付や金額等)が網羅的に記載されていなくとも、県監査委員においては、依拠された調査報告書等を参照することで、本件請求の対象を他の支出から区別して認識することが可能であったといえる。
結論
本件住民監査請求は、対象の特定に欠けるところはなく適法である。したがって、これに基づく住民訴訟も(期間内に行われた部分については)適法となる。
実務上の射程
内部調査等で一括して不正が公表された事案において、原告(住民)側がすべての支出記録を把握していなくても、調査報告書等の客観的指標を援用することで「特定」のハードルをクリアできることを示した重要な判例である。答案上は、監査請求の適法性を論じる際、知る権利の制約と監査の実行可能性のバランスを考慮した規範として活用する。
事件番号: 平成9(行ツ)62 / 裁判年月日: 平成14年10月3日 / 結論: その他
1 財務会計職員が行った財務会計上の行為の準備行為が違法であることに基づいて発生する当該職員に対する損害賠償請求権の行使を怠る事実を対象としてされた住民監査請求については,上記違法が財務会計上の行為の違法を構成する関係にある場合には,財務会計上の行為のあった日又は終わった日を基準として地方自治法242条2項の規定が適用…