地方公共団体の長が,地方自治法96条1項5号によりその締結につき議会の議決を要する1個の工事請負契約を議会の議決が得られなかったためこれを要しない規模の3個の工事請負契約に分割して締結したことについて,当該工事を実施する高度の必要性があり,その実施に不可欠で既に交付決定を受けていた補助金を利用するために年度内に工事を完了させるほかなく,工期の短縮等の手段として工区を分割することが当該工事の内容,性質,実施場所等に照らして合理的であったなど,同号を潜脱する目的でされたことを否定するに足りる特段の理由の存在を認定することなく,上記各契約の締結に違法がないとした原審の判断には,違法がある。
地方公共団体の長が地方自治法96条1項5号によりその締結につき議会の議決を要する1個の工事請負契約を議会の議決を要しない規模の3個の工事請負契約に分割して締結したことに違法がないとした原審の判断に違法があるとされた事例
地方自治法96条1項5号,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)242条の2第1項4号,地方自治法施行令(平成12年政令第55号による改正前のもの)121条の2第1項,地方自治法施行令(平成12年政令第55号による改正前のもの)別表第1
判旨
地方自治法96条1項5号が定める議会の議決を要する契約について、長が議決回避(潜脱)目的で工事を分割して契約を締結した場合は違法となる。ただし、工区分割が工事の性質上合理的であるなどの「特段の理由」がある場合には違法とはならない。
問題の所在(論点)
地方自治法96条1項5号およびこれに基づく条例の「議会の議決」を要する契約を、長が分割して締結する行為が、同条の潜脱として違法となるか。また、その判断基準は何か。
規範
地方自治法96条1項5号が一定の契約に議会の議決を求めた趣旨は、重要な経済行為に関し住民の代表の意思に基づく適正な事務処理を期することにある。したがって、公共事業の実施方法等の決定が、同号を潜脱する目的でされたと認められる場合には、当該決定は長の裁量を逸脱したものとして違法となる。ただし、当該分割発注が、工事の高度な必要性、補助金利用のための期限、工期短縮の合理性等の「特段の理由」に基づく場合には、潜脱目的の違法なものとはいえない。
重要事実
秋田県a町の町長(被上告人)は、5000万円以上の請負契約には議決を要するとする町条例に基づき、本件排水事業工事の議案を2度町議会に提出したが、談合疑惑等を理由にいずれも否決された。そこで町長は、実質的に同一の工事内容を、各契約額が5000万円未満となるよう3つの工区に分割して設計変更を行い、議決を経ずに各業者と請負契約を締結した。原審は、年度内完了の必要性や住民利益を理由に裁量権の範囲内としたが、住民側が損害賠償を求めて上告した。
あてはめ
本件では、当初1個の契約として議決を求めたが否決された後、直ちに実質的に同一の工事を分割して契約している。この経過に照らせば、専ら議決回避の意図(潜脱目的)によるものと推認され得る。原審は、補助金失念の回避や住民利益を「やむを得ない理由」としたが、工区分割が物理的・性質上合理的であったか、補助金の繰越し折衝を尽くしたか、実際に工期が短縮されるかといった具体的根拠を欠いている。これらの具体的要素を検討し、「特段の理由」の有無を確認しなければ、潜脱目的がないとは断定できない。
結論
原審の判断には審理不尽・法令違反がある。町長の行為が「潜脱目的」によるものか、あるいは合理的根拠に基づく「特段の理由」があるのかを再度審理させるため、原判決を破棄し、差し戻すべきである。
実務上の射程
地方自治法96条1項5号の議決要件を回避するための「分割発注」の違法性を判断するリーディングケース。答案では、①原則として潜脱目的があれば違法、②ただし、工事の性質や緊急性等に基づく「特段の理由」があれば適法、という二段構えの枠組みで論じる際に用いる。
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